迷いの森
“迷いの森”と呼ばれる地域がある、とある都市の一角にその森はあった、といっても、実態は、実際の森ではなく、廃墟群の連なるコンクリートジャングルだ。郊外に近いその場所には、そういう所の例にもれず、不法滞在者、裏社会の人間、ホームレス、等々、居場所のない者たちが集う。
廃墟独特のしけったようなカビくさいような匂い。それはある種の“人間以外の生物の生活臭”とでもいうのかもしれない、自然の生物がコンクリートと境界があいまいになり、混じり合い、奇妙な臭気がう。
かつてここは、完全にスラムと化したことがあったが、いまではそれほど人が集まらない、その理由は、外部の人間に中々知られることはなかった。まだ郊外の、移民たちの住む場所よりは、随分とマシだったからだ、無関心とは、それほどに適当なものなのだ。だからこの話は、一部の人間にしか知られていないのだが……ミイラ取りがミイラになった、というような話があって、それを発端に、ここに集う者たちが激減したのだという。
外部のものに、一度だけ、ただ一人口を開いた人間がいた。彼はその地域の一定区画内のボスであり、取り締まりをしている人物らしい。彼によると、発端は“幽霊さわぎ”、その噂がスラムの人間や、“森”に近づこうとする人々を遠ざけているのだという。
その、半分スラムと化した“迷いの森”にて、かつてあるオカルト研究家がなくなった。生前はとてもフランクで人気者で、陽気な雰囲気を醸し出していたが、死後、幽霊となって姿を現す事があるらしい。
「という事はなんですか?その彼の変貌をみて、あるいは幽霊になって人格が変わったのをみて、皆ここへ近寄らないんですか?」
外部のものは尋ねると、“迷いの森”の住人は答えた。
「それが、そうじゃないんだ、あいつ幽霊になっても、幽霊を追いかけ続けて記事を書こうとしてんのさ、怖えだろ、ここで死んだ人間は、死んだ事にすら気がつかないんだって、もっぱらのうわさになってるよ」
迷いの森