ある子竜の話。

 ポジティブである事の意味は?イアソンは考えた、そこは、いつもの小竜エイラが日向ぼっこをする場所。切り立った崖、小高くなった丘、大地の裂け目があちこちへと続く村はずれの峡谷。小竜エイラは、魔力をもたなければ、特段かしこいわけでもない、ただ、少年イアソンと心を通わせている。
イアソンは小竜エイラの飼い主だ。子竜は、たつのおとしごのようにぷっくりとした腹をしていて、かわいいくちばしと、まるっみをおびた渦巻状のつのをもっている、温厚な竜でいつもにこにことしている、村の若者や、子どもたち、女性にも大人気だ。村の近くにある大都市ハーは、世界樹の左裾の末端にあった。そこがこの近辺と、“世界”を支配していた。

 だがそこは、世界樹の末端、末端の世界は壊れやすい、世界樹にある世界は神話に刻まれた役割が、それぞれあるが、ここには、明確な役割はない。そういう場所に生まれた人々は、自分たちの世界の弱さにおびえ、恐れながら生きなくてはいけない、それと真逆で、こことは別に、中心にある大都市や神話の役割のある世界ほど、安定している、それはそこに住む人々の暮しや生活もそうだ。

 エピソード

・枝を食い荒らすニーズヘッグ、ニーズヘッグが現れると、世界樹の末端まで伝令が行き届く。その影響で、各地に魔物が出現する。
 イアソンの役割は、魔物退治だ。魔物退治といっても、それはたいてい5人一組のチームを作って行うもので、魔物狩りギルドがその手配をしてくれる。仲がいいメンバーがいた場合、ギルドを介さず、直接アプローチすることも禁止されていない。

・チームはパーティともよばれ、役割は様々だ、イアソンは、家族にとても心配されている、それは彼の中に魔に関するあるいわくつきの過去があるからだが……イアソンの姉リーアは、そんなこともあって、常に日常的にイアソンを監視している、常に彼と行動し、同じパーティの重要な位置を占める。彼女は回復魔法が得意なのだ。

・今日の朝現れたのは“家畜食らい”の“プロバトン”。
 キメラで、羊のような見た目をしているが、顔には仮面をつけている、その仮面を剥ぐという事をしなければ、その怪物は家畜のみならず、時に人間を襲ったり、ひどいときには食らうときもある。
 イアソンが午前8時に目を覚ますと、家畜たちはすべて目をさましていて、姉からイアソンへ“家畜食らい”の出没の連絡が入った。
それは死の沼とよばれる、地獄の底へ通じる沼地の近く、郊外のさらに人気ない荒野の近くに出現したらしい。彼らはいつものパーティを呼び、魔物狩りのため、いち早くその場へ出向く事にした。

・荒くれものの強い魔物をかれば、ギルドや神族、魔族から、それだけ大きな報酬を得る事ができる。イアソンは、馬にまたがり、姉をのせて駆けて向かったが、姉はそのときにもイアソンの心配ばかりしている。これはいつものことなので、イアソンも聞き流す程度にしていたが、リーアは本当に心配をしていたようだった、いつにもまして、同じ事を、何度も、それも強い口調で語りかけた。
「あなたが生まれたとき、魔物があなたを奪いにきたでしょう、それは凶兆、忘れてはいけないわ、あなたは贄の性質がある、貴方の中の暗い部分を、決して孤独によって、拭い去ってはいけないから」
 イアソンは、ほかの人間たちと違うところがあった、普通人間は魔力をもち、それと同時にほぼ同等に魔力を感じる能力をもっている。
 たとえば、それはイヤホンを音楽できく場合、いいイヤホンを使うか、悪い音楽をつかうか、悪いイヤホンをつかって音楽をきいたときには、どんないい歌声や才能もっていたとしても、それをうまく形にする事も、その力を最大限に活用する事もむつかしい。
 イヤソンは、魔力をコントロールできない、そのわりに莫大な魔力をもっている、それが、彼が長らく……魔物につけ狙われる理由だった。

・「きたぞ!!イヤソン!!」
 筋骨隆々の、常人の二倍ほどある身体を持つギアードがイアソンに向って叫んだ。魔法使いのリューシェも、彼の背後でイアソンをみた。今日はいつもパーティにいる、盾役のフランクがいない、イアソンは緊張していた。彼の役割とは、常に「陽動」の役回り。
 「こっちへこい、化け物!!」
相手はニヤリとわらう、荒野にぽつりとさいていた花や、動植物を、朝の数時間で食い荒らして、まるで砂漠のような見た目に変えてしまった化け物。
パーティのだれもが額から汗を流し、緊張していた。巨大盾をもつドワーフ族のフランクがいない、イアソンは、下手をすれば魔物にくわれてしまうかもしれない。そのとき、イアソンの背後のバッグに隠れ入っていた子竜、エイラがないた。
 「エイラ、まだだ、まて……」
もう少しひきつけなくてはいけない、イアソンの魔術は味方が安全な場所へ避難しなければつかえない、莫大なエネルギーは、放出の方法をしらない。そのとき、ギアードが魔物にむかって自分の倍はあろうかという巨大な剣を突き立てた!魔物の横腹に、その切っ先がかすめ、魔物は黒い血を流した。それがとびちりギアードの眼をふさいだ。
 「ぐっ……イアソン!!もちこたろ、リューシェ、リューシェ、火の魔法はまだか!!」
 「まだ正午まで時間がある、魔力は本調子じゃない!!」
魔法使いリューシェは、午後にもっとも力を発揮する、彼は魔力のコントロールが得意だが、反面、魔力の量は限られていた、いうならば秘密兵器、そのとき、リーアが楯の魔方陣を発動して、イアソンの前にでた……と同時に、まるで紙切れが突風で吹き飛ぶように、いとも簡単に“魔物プロパトン”の突進でつきとばされてしまった。
 「 プギィイ 」

 「姉さん、いまだ!」

 イアソンは叫んだ。彼の姉リーアは、彼が言わんとする事を即座に理解した。彼の向いている方は、リューシェやギアードのいる場所と真逆の方向だった、そこならば、魔法を使う余裕がある。そこで、リーアは、即座に魔方陣をくみたてる、それは竜の腹と、イアソンの魔力とを直結する魔法、竜の腹は、異次元へつながっていて、人間の何倍もの魔力を蓄えておくことができる。子竜とても同じこと、イアソンが気合をいれて叫びをあげると、子竜エイラは、イアソンの方をけり、滑空し、翼をはばたかせ、彼の方から少し前方へとびたって、その瞬間、リーアのつくった魔方陣が腹でひかった、それはリーアによる魔力のコントロールだった、このパーティの最終手段、コントロールの不完全なイアソンの魔力を、姉のリーアがコントロールし、子竜の口から吐き出す、連携魔法だ。子竜エイラはとてもかしこかった、そして、イアソンがもっとも愛情を注ぐ相手でもあった。そのくちばしが大きくひらききったとき、尖端で魔方陣が完成した、その中央から赤い光の、炎の渦がまきおこり、キメラにむかって突進し、相手の動きをとめ……数秒もせずに彼を焼き払ってしまった。
 「い、いけた……」
 放心するイアソン、リーアも意外だった。いつもはこんなにうまくいかないのに……近頃イアソンは、昔より人に心を開いている感じがする、彼等の村の呪術師によれば、それは小竜のおかげだという。子竜は、イアソンと同年代の少年少女と彼とをつないでいる、イアソンはまだ12歳、悩み多いとしごろだ。だが彼は勇気とやる気にみちている、その間は彼はいけにえにはならないだろう、リーアは姉として彼の生き方を見つめ、過ちを犯さないように監視する、それは両親や村によるいいつけ、だが彼女は、きっとそれが、自分の決心でしかないと信じてやまない。
 「どうか弟が明日も無事でありますように」
二人の仕事の内容とは裏腹に、リーアはそんな事を一人いのったのだった。

ある子竜の話。

ある子竜の話。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-31

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