カタルシス語る人
彼は特殊だ、彼はカリスマ性があるのだ、
勤め始めて立場も弱い、残業組の中で、
「ながら作業って本当に悪いだろうか?息抜きに別の作業を挟んだりしないか、なあおい?」
「ああ」
そういいつつも、彼はながら作業をしない。彼は昼のうち、奇妙な言葉遊びをしては、同僚を楽しませるのだったが、深夜ともなると彼の中の猟奇的な性質の一面がゆらゆらと顔を出し、その標的を探しだす、それは懲罰だった。残業とは懲罰の側面がないか、なぜこういう事になってしまうのか、どこかしらの原因が会社か、社会かどちらかに存在しているのだ。だが彼は、思い切った行動にはでない、なぜなら昼間の彼は、カリスマだからだ。夜は少しうるさいが、同僚たちは彼をたしなめる事をしない、それにはいくつか理由がある。
「ぴーひょろろろお」
カリスマと同僚たちの席には少し感覚がある、カリスマはムードメーカーだから重宝され、部長の一番近くの場所に席がある、それはオフィスにはいって、むかって一番手前の右端だ。その間ちょろちょろと家政婦型アンドロイドが、オフィス内のを動き回り、次に入れるコーヒーの分量を計算している、健康に害がなく、疲労感を和らげるだけの分量について、彼女は試行錯誤する。ならば、とカリスマは“ながら作業”を少し挟んだ。なぜ彼女は、人間にできるだけの仕事をしないのか、機械に仕事が奪われるとはよくいったものだ、誰も奪いはしなかった、ここにあるのは懲罰だ。懲罰と競争は常に犠牲を必要とするのだ。
「なあ、お前はどう思う、アニー」
アニーは家政婦アンドロイドだ、アニーは答えた。
「そう思いますとも」
彼女はいけにえだった。彼女には答えもなければ、疲れもない、疲れも無ければ、ストレスもたまらない。ならばアニーはこの場所にとって一番都合がいい存在だ。アニーに話かけたのがボビー、昼のボビーはカリスマ性をもっていた、夜の彼は、カリスマ性を持ちながらそれを使うことを恐れていた、いけにえに話しかけ、彼は自分が、アニーを利用している事に気がつき、また黙々と作業に移るのだった。
「ボビー、またやってるよ」
「ほっとけ、あれは漫才なんだから」
いつのまにか、上半身裸になったボビーはアニーと一緒にオフィスを横断し、同僚たちを笑わせる工夫をする、しかし同僚は笑わない、笑っているのは、ボビーの中の狂気だけ、昼間のストレスの吐き出す場所が見つからない、だが同僚たちは、ボビーのカリスマ性はこういう所にあるとおもっている、アニーに最も優しいのがボビーだからだ、夜のボビーは少し狂ったところがあるが、昼が昼なので誰もが許す、職場は常に狂気にふたをするものだった。
かくしてだれも不満を感じないオフィスは出来上がるのだった、ならばいつ、だれが、闘争をするのだろう、もっとも戦っているのは、アニーだ。アニーは眠らせることもせず、殺す事をしない、従業員の味方なのだ。
カタルシス語る人