寝相の像
ある男が寝相の像をつくった、赤子も寝静まる夜のこと。4畳ほどの自室の、特設スペースごみを吐くために強いた大き目の紙、木片があちらこちらへ、とびちるのをおそれてたてた、一頭分ほどの机上のコの字のかこい。その中で、彼は朝まで集中力をたもち、始終、前傾姿勢のねこぜのかっこうでもって、回転する小型の刃のついた専用機械や、ノミを器用につかって木をほり、仏像をほっていた、それは彼だけの仏だった、もうすぐで完成するのだ。
彼は、立体造形物、ましてや仏像など敷居がたかく感じて、そういった事挑戦するのは初めてだった。それに彼はわかい、よほど夜中にひまがなければそんな事はしなかった。しかし彼はワクワクしていた、その仏像は彼の挑戦だ、深夜、人と同じ時間に眠る事のできない、睡眠障害を持つ彼にとっては、それは長年ためていた憎悪の結果の集大成とも言え、だからこそその仏像は、そんな理屈で、記憶の中の、彼のある寝相の姿を立体的に投影したような姿になっている。その姿は、学校の机に腕組みをして輪の中に顔をつっぷして、心地よさそうな笑顔を浮かべる優しそうな仏像。
なぜそんな像がうまれたか、それは、彼の学生の時のこと、彼は自分の睡眠障害の理由を、誰がなんといおうと、学生時代の授業中の睡眠にあると思っている。彼女が、母親が、なんといおうと聞く耳をもたなかった、彼の幼馴染の少年が、ある日ぽつりと言った事、彼はその前日まで、いつものように朝までこの寝相の像をつくり続けていた、幼馴染の友人は何を彼に伝えたか。
「あのさ、お前さ、高校時代、胸がいたいっていってたよな、病弱なお前のことだからいつものことだとおもってたけど、お前、一年の初めの頃子供ができてやめていった担任に恋をしていただろう」
そのとき、男の胸にぽっかりと穴が開いて、仏像は作りかけのまま彼の机の上に飾られる運命をたどった。
寝相の像