旧校舎四階の男子トイレの窓から見える風景は、嫌いではないけど好きでもない。しかし俺は何度となくそこから地面を見下ろした。窓の外に見えるのは、遠くの景色を見ようとするのを遮るように生い茂った木の枝ばかりで、見下ろしてみても硬そうな土と雑草が見えるだけだった。後は何もなくて、人がいることもまずなくて、いつも湿った匂いがしている、殺風景な場所だった。
 そんなところに俺は毎度毎度足を運んだ。例えばそれは何かミスって教師からひどく怒鳴られたとき、それはクラスメイトに挨拶しても無視されたとき――何か心に膿のようなものが溜まるのを感じるとき、俺はこの窓から外を見た。狭苦しい景色しか見えないというのに、この窓から見える殺風景は不思議と心を落ち着かせる気がする。気がするだけだ。実際はこんな不毛な場所にそんな効果はない。眠る前に布団の中であれこれ思い出して身悶えたり、変な感情の昂ぶりで壁を蹴り上げたりなんていうのはしょっちゅうだ。つまりこの窓から景色を見ることには何の意味もない。
 それでも俺は今日も足を運んでしまう。
 その窓の外には、湿った殺風景がただ閑散とそこにあるから。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-30

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