人間製造
人類初の人造人間の話。
謎の博士によって彼はうまれた、彼は日課として、博士の要求する“人間性”のノルマをこなさなくてはいけなかった、それは博士の要求する“仕事”、人造人人間一号によると、博士はその知性によって、特殊な取引先から依頼される仕事を日々、こなしている様子らしかった。その博士によって人造人間一号はつくられた。彼は特殊な性癖を持っていた、それは人間でないものを愛する癖で、しかもそれは人間を模していなければいけない。簡単にいえば、人形を愛する癖があった。
彼が人間の手によって作られたという真実を知らない事を踏まえれば、その性癖はある種当然といえるのだろう、だからこそ彼の意をくみとって、彼の生についてのその都度の考察を続けなくてはいけない。彼はいかにして死んで、いかにして生きたのか、そしていつか“あの博士”の正体を見つけなければ、それは人道にもとる行いであることを暴く事ができない。申し遅れたが、私は探偵A、その“博士像”について大体の資料が集まったので、警察だけに任せてはおけず、この資料について世間にばらまく事にきめた、その人造人間は確かに生まれて、確かに死んだ、それは人間という種が必ず共有しなければいけない事実だ。私は探偵としての癖が、私の中の正義を突き動かすのを感じている。
初めの人工生命はいかにして生まれたか、それを知るすべはない、だが彼は一号であって、それ以前はいうなれば“0号”だ。
彼が生まれたとき、彼はある実験室で、0号たちの死骸をみた。そして博士は、それを見た彼の、彼の感情をさとってこう告げた。
“お前は生き延びなければいけない”
多くの死骸は、人間にたりていて、人造人間には足りていない何か、を博士と1号に教えていた。1号と博士は、仮初の家族だった。博士はその身を世界中から求められ、あるいは批判されて追われている身であるため、ほとんど世の中に姿を現さなかったが、人造人間一号は、世界中を、博士とともに歩き回った。博士は身をかくし、そのため1号は博士の分まで必要な活動をする、彼の手となり足となった。
人造人間は、人形を愛した、人の形をするものを愛した、それに反して、彼は破壊の衝動をもっていた、人の形をしたものを壊したくてしかたがない。それは偏執だった。あるいは実際に犯罪的な行動を起こしたことさえある、これは立派な犯罪で、人間の持つ法によって完全にさばかれなければいけない。……衣服売り場のマネキンを破壊した事もあったし、人の人形を……小さな赤ん坊の人形を、母親と子供から取り上げ、奪って壊したこともあった、彼は人間によって死をもたらされたこともあった、彼が職場で、あまりに異質な態度を示したとき、彼が人間でないと知ったスラムの住人によって、数十人がかりでバラバラにされたとき、彼の中に少しばかりの怒りは目覚めた、人間に牙をむけなかったのは、人形を愛したものの、人間に興味をしめさなかったためだ。それは博士が、そういう作りにしたからなのだろうか?
彼曰く。博士は常にあらゆる都市の地下に住んでいた、博士は研究熱心だが、人間についての資料をあまりもたなかった。博士は、人間であるのか?それさえも我々には知る事ができない。我々は人造人間一号の軌跡を愛し、そして知ることしかできない。それこそが人間の倫理だ。だが彼は、博士は、少なくとも人造人間を愛し……人造人間一号にとって熱心な、真摯な、知的な家族で、家族であることを演じていた。彼は、人造人間に植え付けた破壊衝動は、“人造人間が長生きするために必要な感情”だと、人造人間に言い聞かせていたようだった。
“一号、一号、おまえには人間であるための欲求をほどこした、それが破壊衝動だ”
自分の悪しき衝動は、父が植え付けたと、父によって愛と同時に植え付けられてきたものだとしったとき、彼は幾度となく自殺をえらび、自殺の衝動を形にできず、生涯苦しんだ。死が怖いが、生に意味を見いだせない、しんでも何度も父であり、家族だった、博士に救われる、彼は何度も死んだが、数時間後に必ず博士に救われた、近くには0号の死体、0号は彼を地上世界から救い出し、地下へと運んだあと、3時間ほどで必ず死んでしまう、博士曰く
“破壊衝動を持たないため”
だという、人造人間一号は、生涯において三度、それも自殺を一年の間に三度繰り返した、それはちょうど20代のころだったという、その以後は……博士いわく、愛のために、破壊衝動を抑え続けたという。その一年のおわり、博士は人造人間Ⅰ号をこうさとした。
“お前は死にたがっている、そして生きたがっている、それは人間の尊さににている、それが0号との違いであり、その苦しみを持たない事が0号が短命である理由だよ”
と。
彼は、博士の命令や、命じる仕事以外にはほとんど無関心だった、それでいて博士に対する強烈な執着と復讐心を持っていた。彼の愛に対する返答とそれによる達成感は彼の心に罪悪感をもたらした。なぜ、人の形をするものへの破壊衝動を、植え付けた父を愛するのか、そして、人の形をしたものを愛する心を、相反する心を持つ自分を殺す事ができないのか。彼はやがて、詩を愛する事になった、人間を収集するようになった、それはデータとして処理して、分析する、彼は人を愛さない、その代わり、彼独自の感情を持つようになった、占いをし、詩をたしなみ、本を読み、それによって自分の人間性を担保した。
しかし彼は友人をつくらなかった、彼の中の完全な友人はそれを作る事を拒んだ。享年120歳、彼は中途半端なまま、死を迎えた、次の生命こそ完璧にこしらえなければ、彼の前ですら、匿名の博士はつぶやいた、“一号、お前さえ、完璧な人間に程遠い”……と。だからこそ、一号は博士を恨みながら、愛し、愛しながら、恨んだ。
だが、博士は知らなかった、彼が最後に裏切り、彼の生涯を記した日記と、博士の人物像に関してのヒントを、人類に渡したことを。
人間製造