自分の言葉製造機械

「僕はしゃべる事が苦手です」
それで許されるなら、あらゆる仕事やコミュニケーションの場では、人間は自分の言葉を必要としないのだ、
孤独な中学生エラは悩んでいた。彼女は僕っこで、いわゆるそれは、女性が一人称僕、を使う、サブカル、漫画、アニメで重宝されるアレで。
もちろん、そんなもの日常生活では使わないが、彼女はかわいい見た目をしているくせに、やけに自分に自信がないタチで、ファッションにも興味があり、親しい友人にはそこそこにいい評価を受けているのだが……。
 
 彼女の欠点とは、コミュニケーションに対する完璧なまでの無力であるという特性だ。
昨今アルバイトといえど、コミュニケーションスキルが必要な場面の方が多い、エラは、人前にでると緊張してしまい、あたふたとして頭が混乱して思わぬ行動にでたり、そのせいに異様に疲れたりする、なので彼女は現在休息に普及しつつあるスマートペット<人工知能装備型スマートフォン>というものを利用して、自分の言葉を間接的に表現してもらう事にした、これは最先端のコミュニケーション方法だが、自分ではなく、スマートペットにしゃべらせる、これを仕事中など厳粛なコミュニケーションが求められる場で利用しようとするのはどうなのか、と思ったが、マネージャーがよしとしたので、利用する事にした、言い忘れたが、ごくたまに叔父の経営する喫茶店に短時間アルバイトとして入る事がある、彼女はもっぱらレジだけでそれ以外は一切しない、できない、という断りをいれてあるが、叔父はその話をするたびに悲しそうな顔をするのだった。

 スマートペットを利用して、彼女の言葉を代弁させ始めてから数か月がたった、彼女の言葉にそっくりな音域、リズムをもってしゃべるペットはいつのまにか仕事仲間のうちでも親しまれていった。
「なんでそんなものを」
「うちの子は変わっていて、実は同人誌のアイデア探しにこんな格好をしているんです」
「へ、へえそうなの」
ときにはお客さんから不満を言われることもあったが、従業員がかばうことがあった、かばう彼女は、従業員のエレナ、黒髪長髪の美人だ。エレナはエラの相談役で、実の姉のように親しく接してくれた、その姿をみて、叔父はいつも頼もしくおもっている。彼女をはげまし、時にアドバイスをする、あまりに下手をすると叱られる事もあったが、エラにとっては、素晴らしい理解者で、徐々に仕事の幅が増えていくときに、彼女を支えた。

 彼女はエラについてどう思うか、叔父は聞いたことがあった。
「一人でできない事がある分、彼女は後片付けを人一倍丁寧にやるわ。広いホールの掃除も、白いテーブルも汚れがみえないように色々な薬品をつかったり、それからネットを使うのもうまいから、色々な事をおしえてもらった、だから別に、特別私がしたしくしているわけじゃないわ」
おじはニコニコしてそうかそうか、と喜ぶ。

 その影響もあってやがて、ホールで食事を運ぶことにもなれていったエラ、時に、スマートペットを型にとりつけたまま仕事をする奇妙な姿に、常連ではないお客さんが、ふいに奇妙だと話しかける事もあったが、彼女はそつなく答えた。いつのまにか自分でかばうことを覚え始めたのだ、初めてそういう場面にあったとき、彼女はなぜかスマートペットの擁護をしたのだった。彼女たちもきっと働きたいと願っている、と初めてエレナがきいたときは、ぷっと噴き出してしまった。

彼女がスマートペットを利用して仕事を完璧にこなす事ができるようになったとき、叔父はいつの日か、姪っ子がエレナのようになる事を願った。

自分の言葉製造機械

自分の言葉製造機械

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-29

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