求めていた俺 sequel
第四部 「覚醒のズメ子編」
十六話 潜む足音
探検家の江原岬は律儀に名刺を取り出して桐生に渡した。
「どうも・・」
桐生はとりあえず名刺を有り難く頂くことにした。
「えぇと、あなた達は何をしにこの学園に?」
江原が問う。
「うーんまぁ、俺らは大した用じゃねーんだけどな。少し恥ずかしいがその・・・
肝試しを・・ね」
どこかソワソワしている桐生。対し江原はこう答えた。
「肝試し!? 素晴らしいじゃない!」
「素晴らしい?」
首をかしげる桐生一行。
「そうよ、素晴らしいことよ!今時の若者達は家でゲームしてばっかりって聞くからね〜。それに比べてあなた達はナイスな探究心を持ってるわ。なにも恥じることはなくてよ。」
「(なるほどそうきたか・・。流石は探検家だな)」
ふむふむと腕を組み頷くキリュウ。
そして、四人の同志に出会うことが出来て気持ちが昂ぶった江原は言った。
「それじゃあ貴方達にはここから出る方法を教えてちょうだい?」
「は・・・、ここから出るって・・?」
「なにを驚いているの?私はもう校舎の隅々まで探索し終わったからね。ここから出たいのよ。」
「それなら普通に玄関から帰ればいいんじゃないか?」
「うーん、それがねぇ」
実に困ったと、顎をさする江原。
「玄関のドアも裏口のドアも、非常口も窓も何故かどこも開かないのよ」
「は・・?」
返す言葉が見つからずに桐生一行は揃ってポカンと口を開ける。
「ま、まさかぁ。ちょっと確認して来るわ」
「おう、悪りぃ頼むわ」
半信半疑のコウスケが桐生達の元を離れて校内を走り回り、あちこちのドアを開けようと試みる。
ガチャガチャガチャ!
「本当だ・・。どこも開かねぇじゃねえか!」
ピッポッパッ
江原の言っていたことは真実だった。早速コウスケは携帯電話を取り出して桐生に自分達が閉じ込められてしまったという事実を伝えるべく親指を走らせるが、
プルルルルル・・・・
「あれ?」
『お掛けになった電話番号は現在使われておりません』
「うっそだろオイ・・」
気を取り直してもう一度。
ピッポッパ・・・・プルルルルルルル
『お掛けになった電話番号は現在使われておりません』
「圏外、なわけねえよな」
コウスケの携帯からは無情なアナウンスが鳴り響くのみである。
「チクショウ!」
カシャッ
やけくそになり携帯電話を投げ捨てるコウスケ。 携帯が繋がらない以上、コウスケが優先すべきことは一先ず桐生達と再び合流して脱出方法を探ることだ。 しかし問題発生。
「あれ・・俺・・どこから来たんだっけ?」
辺りに広がるのは暗闇のみ。窓から少々月の光が差し込む程度である。
コウスケは懐中電灯で足元を照らしながらひたすら歩く。
チカッ.. チカッ..
懐中電灯が突然明滅し始める。
「こんな時に電池切れか?」
チカチカッ..チカチカ...
懐中電灯の明滅速度がまるでコウスケの焦燥に比例するかのように増していく。
そして遂に。
パッ。
「とうとう消えやがった・・。」
カチカチッ
懐中電灯の電源をいじってみるがやはり反応はない。
その時だった。
「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッ」
音源は真後ろから。犬の呼吸音に似たようなものが聞こえて来た。
「(なんだ犬でも紛れ込んだのか?)」
後ろを振り返るコウスケ。
だがそこには誰もいない。
コウスケは、上下左右あらゆる方向をキョロキョロ見回すが同じような景色が広がるのみである。
「確かに聞こえたんだけどな・・」
その頃。桐生、江原、マナト、サファイの四人は校舎の4階の教室にいた。 ちなみに現在コウスケがいるのが2階である。(聖川東学園は6階建てであり、一階ごとに約10教室並んでいる。)
マナトが話を始める。
「なぁ・・コウスケを放っておいて大丈夫なのか?」
「まぁ、一応アイツ”氷結“の能力者だからな。もしもの時は何とかなるだろ」
どうやら桐生は対して案じていないようだった。
「だと良いが・・。ところで江原さん」
「ん?なにかな?」
マナトの視界にやたら食い込んでくるのは江原の背負っている巨大なリュックだ。
「あんたが探検家なのは分かるけど、そんなにでかいもの普段も背負ってるのかな?」
「あ、やっぱり気になる?気になる? フフ、なんとこの中身はというと・・・」
ゴクリと唾を飲む3人。
「秘密でぇええええす!」
舌を出してベロベロばーをする変人江原。
「美人で大人しいキャラなのか、うざいキャラなのかはっきりしろよ。どれもこれも作者のせいだな。」
つい心の声を漏らしてしまうマナト。
「メタ発言はやめようね」
この場において最年少のサファイが注意する。
「プッ、フフフ・・ははは、」
マナトとサファイの平和なやり取りを聞いていて思わず笑みを漏らす江原。
「何がおかしいんすか」
「いや、なんか君達楽しそうでいいなぁって」
学校に閉じ込められている上に、1人の仲間を見失ってしまうという絶望的な状況下にも関わらず実に呑気だなぁと、桐生は思っていた。
そして彼は決して聞き逃さなかった。今から10分前、4人が教室に入って数秒経った後に
微かに聞こえた「ペタッペタッ」という物音を。 この場にいる4人の中で唯一、彼 ”だけ“ が聞き逃さなかった。
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