写真嫌い

「おれは写真が嫌いなんだ」

 恋人はつぶやいた、何がそんなに嫌いなのか、私はこんなに好きなのに、思えばこの人は不必要な頑固さがある、嫌いなものを、嫌いといったら反論には一切耳を傾けない。そういえば、私の恋人、いや、今までつきあってきた元の恋人は皆一様にそんな事をいっていた。なぜ嫌いなのだろう、    私は手持無沙汰に、脚をぶらぶらとゆらした、ふとももの肉がきになる。彼の部屋、彼はテレビゲームをしている。私は彼のベッドにこしをかけ、低反発ベッドが欲しいと考えながら、彼がボスを倒し、子供っぽい退屈な言葉が出てくるのをまった、その退屈を塗りつぶすのが私の役目だ。しかし、写真の件が嫌に引っかかる、嫌味みたいなことを延々聞かされても私がそれを好きな場合、ただ私が批判されている気になってくる。例えば以前彼がボーダーの服が嫌いといったので私はそれ以来ボーダーをきれずにいるのだ、本日はワンピース。
「まてよ」
 とスマホを片手にネットでサーフィン、いい時代だ、ワンピースを着たままサーフィンが出来る。私は妙案を思いついた、私の恋人は元来写真が嫌いなのだ、私は元彼の会話をするとき、必ず事故にあって死んだと嘘をつく事にしている、しかもたった一人しか付き合った事がないと嘘をつく、これは使える、常に使える。私の恋人が死んだ設定を使い、かつ、今の彼の嫌な癖を直す方法だ。
 その元の彼は、写真というのは、一方的だからなのだと答えた。これはヒントになるだろう。画面も被写体も固定されているために、写した人間の感性を色濃く残す。そこに受け取りてにとって不必要な要素があったとき、写真を見る人間はその全体に少し、自分とは違う好みを“押し付けられている”感じがするのだそうだ。
 しかし、私はそれが子供っぽいと思う。偉そうに写真が嫌いだと?ならば、嫌いな人間がどんな目にあったかを教えてやる。そして、彼との写真を全て捨てた、このことを彼に伝えよう。もちろん、捨てたという設定ではない、彼が写真を嫌がったのであまり多くとれなかった、という事にする、彼はきっと嫌でも写真についてもう少し慎重な価値観を手にする事になるだろう。彼の天邪鬼な性質や、毎日の愚痴に付き合わされる私の不満をとくと受け取るといい。

「ああそう、私も写真が嫌いなの、その理由を聞いてくれる?」
というと、彼はひきつった顔をしていた。

写真嫌い

写真嫌い

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-28

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