求めていた俺 sequel
第四部 「覚醒のズメ子編」
十五話 彷徨える怪人
「ぎゃああああああああああああ!!」
某日、午前0時の聖川東学園。 川東市の僻地に存在する私立高校で男の悲鳴が響いた。
なぜこんな時間に悲鳴が上がるのか、聞く人があるかも知れぬ。 時を遡る事十五分前。男は聖川東学園の現役職員で、その日は残業のため一人校舎に夜遅くまで残っていたのだ。それこそが運の尽き。
仕事を全て終え、家に帰宅しようと職員室から出た瞬間。 男の目に「奇怪なもの」が映った。薄暗い廊下の中央に一人の影があった。否、”一匹“と勘定するのが適当かもしれない。暗さゆえにはっきりとは見えないが、その影は学園の制服を着ており、四つん這いになって男の前に佇んでいた。 人間にも猿にも蜘蛛にも見える謎の“ソレ”は、能面を被っているため顔らしきものは確認できなかった。
やがて、その生物はノソリノソリと四足歩行のまま男に近づく。
「く、くるな・・・」
バサッ
恐怖で男の手から仕事用のカバンの持ち手がするりと抜け落ち、中の書類がばらける。
男は腰が抜けたようで、思わず尻餅をつく。
その間にも能面の生物は男に近づいてくる。
「ハッハッハッハッハッハッ・・・」
男の耳に餌を欲しがる犬のような声が聞こえた。その音源は、すでに至近距離まで接近している能面の生物だった。
男の顔と怪物の能面との距離は僅か十cm。
「お前は・・一体・・!?」
男の唇が震える。
「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ」
聞く者全てを恐怖と不快感に陥れる化け物の鳴き声の音量は次第に増していき・・
「ぎ、ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!」
そして午前0時。男の悲鳴は上がった。
「うぁあ〜暇だぁぁああ。」
八月十四日、夏休み。桐生は自室のベットの枕に顔を埋めて嘆いていた。
「いや、あかん!せっかくの夏休みだと言うのに暇過ぎて、暇過ぎて、暇過ぎて、つらーいよーおーーーー♪ ああー、いっそのこと俺を狙う能力者とか襲って来ねぇかなぁ。」
カサカサ・・。
ベッドの下からゴキブリがご登場した。
「うわぁっ!ゴキブリキモッ!!」
唐突のゴキブリくんに驚き飛び上がる桐生。
「おーーい、晩メシだぞー!!」
同時に、部屋の外から同居中の義理兄、瓜生の声が聞こえてきた。
「ああ、今行く!!」
桐生はゴキブリを素手でタッチする。すると能力により自由を奪われたゴキブリの触覚をつまんで、窓の外に投げ捨てた。
「まさかこんなところでも能力を発揮するとはなぁ。」
独り言を言いながら桐生は部屋から出るべく扉のドアノブに手をかけようとしたその瞬間。 頭の中で勝手に連想ゲームが始まった。
「(ゴキブリはきもい・・。晩メシ・・・。ん?まてよ? きもい、晩メシ、きもい、晩メシ、きもい、晩メシ、きも、メシ、きも、メシ、キモ、メシ、キモ、メシ、キモメシキモメシキモメシキモメシ・・・”きもだめし“!!)」
「そうだ!!夏と言ったら肝試しだ!!」
夕飯のハンバーグにフォークをぶっさしたまま桐生は言った。
「な、なんだぁ・・!?」
同じ食卓を囲む瓜生が絶賛困惑中である。
てんやわんやで桐生は栗山マナト、馬場コウスケ、そして水の聖者サファイまでも誘い、夜0時に聖川東学園へと向かうことに。
夜の聖川東学園の校舎は不気味であることが巷で噂されていた。それだけが理由で桐生は肝試しスポットに在学中の学園を選抜したの
だ。本当にそれだけが理由だった。
しかし、後に彼らはとんだハズレくじを引いてしまった事を後悔することになる。
桐生達四人は学園の敷地内にこっそり侵入。
そのまま校舎の裏口に向かう途中で桐生はマナト達に話題を振った。
「いやぁなんか悪いなぁ、いきなり肝試しとかに誘っちまって。白石とか敷島とかいたらもっと面白かったんだけどねーー?」
「ん?」
桐生の言動にマナトは首を傾げている。他の三人も桐生の言っていることがまるで分からないようで互いの顔を見合っている。
「(あえて鎌をかけて反応を見ようとしたんだけど・・・。やっぱりマナトまでも、あの2人と過ごした記憶は欠落してるんだな・・)」
「桐生、どうしたの?黙って地面なんか見つめて。もしかして、ここに来て怖くなっちゃった?自分で誘っといて?」
煽って来たのはサファイだった。
「ううん、なんでもねー。それより本題だ。裏口のドア開けたいんだけど案の定鍵がかかってて・・。誰か針金とか持ってない?」
「あるぜ!!」
馬場コウスケはズボンのポケットから針金を取り出し桐生に手渡した。ドラ◯もんかこいつは。
「しめた!コウスケよ、お前は有能だ。」
早速針金を裏口扉の鍵穴にねじ込み、開錠する。
「お前ら、懐中電灯は持って来たよな?」
「「「ああ」」」
桐生ら四人は無事裏口から学園の侵入に成功した。
「さて、校舎に入ったはいいがこれから具体的にどうするんだ?」
マナトが無計画少年桐生に訊ねた。
「あくまで俺達の目的は肝試しだからなぁ。テキトーに廊下を歩き回ってるだけでも十分ムードあるだろ。」
「おい、なんか誰かいないか?」
桐生の言い訳を無視してコウスケが“ある一点”を指差した。
「そんなまさか。こんな時間に人なんているわけないだろ?」
”そんなまさか“はお決まりのフラグなわけだが、そのフラグはあっという間に回収された。
桐生達の歩く廊下の奥から懐中電灯を持った何者かがこちらに向かって歩いてくる。
「誰か来る!」
桐生達四人も一斉に手持ちの懐中電灯の光の照点を恐る恐る”何者か“に当てた。
「ひゃっ、まぶしっ!!」
若い女の声だった。医者っぽい白衣を着用し、ウミガメの甲羅くらいの大きさのリュックサックを背負い、やたら長い前髪が右目を覆っているのが特徴の大人の女性である。前髪のせいで顔の一部が隠れてしまっているが、美人であるのは何となくわかった。
「・・お前は?」
桐生は女を光で照らしたまま訊ねる。
そして女は名乗った。
「私の名前は江原岬。 探検家よ。あなた達もこの学園に探検に来たの?」
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