一日

 寝てもなにかだるいまま。重たい身体を起こしてベッドから降りる。
 父と母はすでに仕事に出かけている。ラップで包まれている朝食を食べる。少し冷めている。
 学校へ行く。着くなり机に突っ伏して寝たふりをする。そうする必要もないのだけれど、なんとなくそうした方がいいような気がしてそうする。
 ホームルームで担任の先生から名前を呼ばれる。返事をする。聞こえているんだか聞こえていないんだかわからない。先生が持つ出席簿の僕の欄にはちゃんと印がつけられているのか。つけられていなかったらいなかったで、それも悪くない気がする。
 授業を受ける。あまり面白いものではなく。大抵のことは右耳から入って左耳から出ていくみたいな感じで。いや、ただのイメージだけれど。こんなくだらないことばかり妄想しているから勉学が疎かになるのかもしれない。でも気づいたら変なことを考えている。前の席の子の頭が急にぱかっと開いて操縦士が顔を出さないかな、とか。
 昼休み。みんなそれぞれでお弁当や売店で買ったパンなんかを広げて食べている。大半の人は輪を囲んで談笑なんてしている。僕は教室の隅の自分の席で黙々と食べるのが習慣だ。こういうのを世間ではぼっち飯というらしい。どうでもいいけれど。
 午後の授業も終わって放課後になる。荷物をまとめて下校を試みる。道中、ふざけて遊んでいる男子生徒と肩をぶつける。ふざけていた男子生徒は謝りもせず、というか肩をぶつけたことにも気づいていない様子で、同じくふざけている仲間と大声で笑いながら歩き去っていく。僕はただ立ち止まって、ぼんやりその楽しそうな姿を眺めていた。
 夕暮れの空はどうにも怖くて、それが好き。別に自分は死にたくないし、世界は滅んで欲しくないけれど、自分も世界もどこかへ吸い込んでいってくれそうで。
 帰宅したら、何もすることがない。ベッドの上に寝転がって、もう何度となく数えた天井のシワを数えてみるけれど、どうにもすぐに数え間違えた気がして、一から数え直したりする。その合間、ふと頭に浮かんだ詩をノートやらメモに書いてみる。しばらく眺めた後、そのページを破ってゴミ箱へ捨てる。書いては捨てる。その繰り返し。
 日が沈んだら、夕飯を食べて、お風呂に入って、歯を磨いて。父と母は今日も帰らない。テレビを観る。画面の向こうのお笑い芸人が何かするたびに、たくさんの人の笑い声が聞こえてくる。僕は何も面白くはないのだけれど、そのたくさんの笑い声に釣られたふりをして笑ってみる。笑ったら楽しくなる気がして。でも楽しくならない――楽しくないな、やっぱり。
 眠くなったらベッドに潜りこんで眠る。夢の中に落ちる一瞬、今日は誰とも会話をしていないことに気づく。明日は言葉を喋れたらいいな、そう思う。
 ありふれた僕の一日だ。

一日

一日

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-26

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