台所のお母さん

お母さんはみそ汁を作っていました。
厚揚げと白菜の入った、みそ汁でした。
私はじっ、と覗いていました。
お母さんが台所でお料理をする様子を、じっと眺めていました。
ぐつぐつと沸騰した鍋の中身は、美味しそうなみそ汁が入っていて、
厚揚げがぐつぐつと揺れていて、白菜が浮かび上がったり、
隠れたりしていました。鼻にはいい匂いが流れ込んできて、
私の頬はピンク色に染まりました。
お母さんは、背中を向けていて、流し場のまな板の上の大根と、
包丁を持って向き合っていました。
私は、真剣な様子のお母さんの姿を眺めると、
無性につまらない気持ちに陥ったので、
「お母さん。お母さん。」
と、何度もお母さんに呼びかけてみました。
お母さんは、ああ?とかんん。とか、
鼻息にも似た適当な返事を返すのですが、
私にはそれが満足いくものではないのです。
しばらく渋々とした表情をしていたのですが、
その内、我慢がきかなくなって足をどたどた
台所の床を踏み付けるようになりました。
お母さんは気にしないように、
最初はまな板の上の大根に集中していたのですが、
だんだん我慢がならなくなって、
「コラッ!」
と、私を叱りました。
私は、ビクッとなって、しかし瞬時に満面の笑みを浮かべていました。
お母さんはうんざりしたような、やれやれといった表情を浮かべて、
「あっちで、テレビでも見てなさい。」
と、言いました。命令された私は「嫌。」と言おうと思いましたが、
面倒なことになることは分かっていたので、
そのまま何も言わず、黙って隣の部屋へと足を運びました。
テレビの前に腰を下ろした私は、
「やれやれ、今日も、つまらない番組ばっかりやってるよ。」
と、退屈そうな目をして、画面を覗きこんでいました。


台所のお母さんは、
「やれやれ、近頃のテレビ番組は子供を拘束する能力が無さ過ぎて困るよ。」
と、言って、手に持った包丁を器用に動かして、
まな板の上の大根を切っていました。

台所のお母さん

台所のお母さん

お母さんと子どもの、優しい話です。 台所で料理する様子というのは、何だか凄く和むものだと思うので、 それを文章に書きとめてみました。 読んで頂けると、幸いです。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-09-27

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