人類愛

少女には何も知らないとは言わせなかった。
少女は何も、いいえ何も知らなかったのです。

少女は夜空を見上げながら宇宙の形状と大きさを想像しているのです。そしてこの宇宙を生身の肉体で真っ直ぐ一直線に飛行する事ができてしまう、そんな少女は凄いのです。
少女は宇宙の飛び方を誰に教わったのでしょうか。宇宙で飛ぶには無重力への心身の慣れが必要で、まずニュートン力学を学び直さなくてはならないのです。
宇宙で初めて生身の肉体で飛んだ少女は何処を見つめているのでしょうか。
それは少女にしか決してわからない。
少女にしか体験できない。
宇宙の中で唯一の観測者になった少女は、全く生まれ変わった美しい人生の主人公になっていたのです。
そう、私は地球の大多数の人間と同じではいけないのです。
この少女のオリジナリティー溢れる5感の感受性で全くの初体験の嬉しさに溢れていき、至上最も幸福なミサが行われる。司祭は少女の心の中にある宇宙で最も美しく飛ぶ女神の凝縮されたフォルムに見とれています。
世界にこれ程までに美しい少女の肉体が、この女神の素粒子へと還元されていくのです。
少女は溢れる純度の究めて高いワインをグラスについで飲みほして、天使の感触にふわっと全く未知なる領域で天に祈るのです。
少女は遠く彼方の上空から地球を見つめて念仏を唱えた。地球上の全人類が少女に向けて、天上世界の創造を実現する荘厳なエネルギーを、天空へとふわふわ飛翔させるのです。
少女の体はみるみると天使のお姿になっていき、聡明な美しき昇る天の川のエキスの中に、しばし惚然とまどろむというのでしょうか。
地球の人間達が地上から少女にライトを向けて照らしだすのを、私は観察者として遠くから俯瞰し、このきらきらと灯るめくるめくる絶景は、何という神々しい清らかなメッセージでしょう。
何十億の光が集約して地球上に美しい虹を架ける、宇宙で初めて歌われる叙情詞。この創成期の新天地に清らかな光が天上界の全てを統一するのです。
全人類が少女に向けてエールを送り一念発起させるのは、これこそまさに天使の成せる神技なのです。
少女は一人で全人類の未来の夢を叶えさせたのです。

この奇蹟を見てお月様が少女に近寄っている。お月様が少女を抱えて天命を尽くし大きく上昇させて、そっとその時、太陽がふわっと現れて神の御言葉を語ったのです。
するとお月様は二つに分かれて、少女をその中へと優しく包み、お月様の心臓部が優しく温めるのです。
少女を月の母胎の中で深く静かにゆっくりと無我の境地に誘うのです。
神は知っているに違いない。この世界の逸脱した次にある新しい宇宙というものを。
少女は月の母胎の中で新たな人間に生まれ変わったのです。その優しい母の暖かさにこの世界でもう一度私の存在を見つめ直し、ひととき万能細胞の小さな宇宙に回帰していく。
私の存在はこの一滴の砂から初まり、無限の広大な宇宙へと優雅に変身していく。
少女は完全に自己の世界を省みて、太陽系の新たな開拓者となった。この太陽系の惑星間を静かに、広大深遠な宇宙に存在していないような感覚でゆっくりと般海していく。
太陽系の惑星達は、私のみな兄弟なのかしら。本当にこの惑星達は愛らしい存在になっていく。

少女はこの無人の荒涼とした惑星達を、地球のような人が住める青い惑星へと改良する事が今一番大きな夢だったのです。
そして長い年月を掛けて広大な美しい陸、海、空を持つ青い地球達ができ上がったのです。
まさに少女は地球の人類の夢を叶えたのかもしれません。

少女は再び地球に舞い戻り、人類に対して地球誕生の演説を行う世紀の名演技に、どれだけ感動させる事ができたのでしょう。
ここで少女は地球の復活宣言を行ったのです。
人類の意志の自由に任せて、どの星に移り住んでもらうのかを一人一人に決定してもらいました。

宇宙には大きなオーロラがたなびいて統一を果たしていく。夜がほのぼのと明けていき虹が大きく天空を架けている、この最も何も無いような遠い静けさ。
この世界は昇天するマリアに生まれ変わりました。これから少女も少女としてまだ復活しなければならないのです。
そして地球から新たな天体に住むために、宇宙を移動していく人類の大移動が始まった。そして青い天体達がこの上なく人間を暖かく迎えるロマンへの序章の感興を呼び起こす。
少女はそれをただ静かにゆったりと見守るのです。
これが人類の未来のひとつの理想形だと信じさせた少女が一番正しかったのです。
まさに人類は今もう一度だけ夢を叶える機会を得たのかもしれません。
人類の未来にとって少女のした事は正しかったのです。みんながこんなにほらっ、元気になっていったのです。
こんなにも人間の能力の可能性って素晴らしいのですね。

天上世界に続く真っ直ぐな道を見つけた少女は、ただ一人天上世界に昇っていけるその未知なる新体験をしている。
地球人は少女の昇天を見つめて静かに祈るのです。
少女のコラールが昇天して、宇宙の天体が全て完全調和していく。
この宇宙は少女の内なる宇宙になったのです。これこそ少女のやりたかった神の計らいなのです。