空間ゲーム

現在、2人の人間がこの空間に存在しています。
私が、これから彼らに命令を出します。
「右手を挙げて下さい。その次、左足を挙げて下さい。」
「両方とも、下ろして。左手を挙げて下さい。右手も挙げて下さい。
右足も挙げて下さい。そのまま静止して下さい。」
バランスを崩さず、ブルブルと全身を震わす2人。
私はまた、命令を下します。
「よろしいです。次は、頭をグルングルン回して下さい。
手加減はせずね。頭がもげるくらいに、強くやって下さい。」
2人は、頭を回した。激しく、ぐるんぐるんと。
苦痛に歪む顔が見られたが、気にはしない。
気にしていたら、何だってやれやしない。
この試験は、生きていく為に実施するものだから。
「次。対峙する人間の身体を掴んで、押し倒して下さい。
投げ飛ばすくらいが、ちょうどいいです。手加減しないで下さい。」
私は、2人の様子を観察した。1人は、勢いよく掴みかかろうとしている。
もう1人は、ためらいを見せて後れをとった。1人の人間に、
肩を掴まれそのまま全身を激しく揺さぶられている。
抵抗もできぬまま、されるままになっている。
体勢が崩れそうになった時、意地か、
相手の体を強く押し返して、そのままのしかかろうと試みた。
相手はたじろいで、そのまま後方へと倒れた。
が、かろうじて右足を地面につけ直し、倒れるのを防ぐ。
私が観ている間、2人とも倒れる気配はないので、
次のミッションに進むことにした。
「2人とも、同じくらいの力を持っているようですね。
では。この世界から、抜け出して下さい。それが、
最後のミッションです。」
2人は、同時に目を見開いて沈黙した。この世界から。
抜け出す事が、できる。
そんな能力、2人ともありはしない。
2人は、しばらく停止していた。その場から一歩たりとも
動くことはなかった。しばらく時間が経って、
一度だけお互いの顔を見合ったが、それ以降
正面に顔を向け直して
お互いの顔を見合わせることはなかった。
永遠ともとれる長い時間を、停止した状態で過ごした。
「どうしました?早く、抜け出して下さい。
この世界から。どうしました?

ならば、2人とも処分です。処分班、回収してください。」
私は、またも決断した。後味の悪い決断をした。
回収を要請した。この2人に、もう割ける時間はない。
この2人には、希望がなかった。生きていく希望。
だから、2人とも、外へ出たがらなかったのだ。
お互いが、お互いの希望となるというのに。

いや、違うか、これは組み合わせの問題か。
今回は、彼らの運が悪かった。
もう少し、お互いに惹かれ合う運命を持っていたならば、
必ずして、外の世界に出ようと行動したであろうに。

空間ゲーム

明日の午後3:30からも、同じ事を繰り返します。

空間ゲーム

ロボットの姿をまず、思い浮かべて作りました。 何かを行動するのに、必ず命令が必要なロボット。 それに命を加えたくて、こんな作品を作りました。 読んで頂けると、幸いです。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-09-26

Copyrighted
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