強人弱神 5

第5章 怒りの月、罰を砕く

こないだ俺は掟の神を倒した。
だが、その代償に意識を失いなんと三週間も寝ていたらしい……
俺が起きると運の風邪も美紀の怪我も完治しており、最初に壊された壁も完全復活していた。
そして、俺もまた完全な体へと回復しつつあった。
「運ー、飯なんだ?」
動けるのだが寝ていろと運と美紀が言うので寝かされている。
ちなみに美紀は『あんたと一緒に住んだ方がすぐに戦える』と言って居候みたいになっている。
「おじやだって、運ちゃんが言ってたよ」
運の代わりに美紀が答えてくる。
「おじやか……」
ちなみに俺はおじやがあまり好きではない。だってそうだろう? あんなベチョベチョしたものを食べろって言うんだぜ?
「カミヤ、ご飯だよ」
運がノックなしで入って来た。
しっかりおじやが入っている鍋を持って……
「い、いただきます」
残すのももったいないので食べることにした。
「なあ、運、俺たちってあと二体で一位なんだろ?」
おじやの食感を紛らわすために俺は運に話しかけた。
「そういうことになるね」
俺がおじやを食べてるのが嬉しいのか微笑みながら答えて来た。
「一体は創造神、もう一体は―――」
「罰の神……」
「罰の神?」
「罰を司る神様ってことよ」
美紀が言葉に付け足しをしてくれた。
それにしても、罰の神か、どんな力を持っているんだろう。
「罰の神と掟の神は二体で一体だったんだよ」
二体で一体?
「それって弱いんじゃ……」
「そんな事ないよ、そもそも私より弱い神様なんて見たことがないし」
洒落になってないぞ、いや真面目に
「でもよ、二体で一体ってことはどっちかがかけたらかなり弱くなるってことだろ?」
「そうなるけど、多分掟の神が何か残してるかも」
そうなのか、あいつが何かしらの秘策を残してるかもしれないのか
「まあ、まだ決まったことじゃないからわからないよ」
そうだよな、まだ決まったわけじゃない、もしかしたら残してないかもしれないしな。
話が終わると同時に飯も食い終わった。
「ごちそうさま」
運は鍋などを片付けるために俺の部屋を出た。
「美紀、何か知らないか? あの二体の神のこと」
どうやら運はそのことをあんまり知らないみたいだから美紀に聞いてみる。
「さっきの話聞いてなかったの? それで全てだよ」
なんてそっけないんだ美紀は、もうちょっと優しく言ってくれても……
「そもそも、あんたは神様のことなんにも知らなくてもなんとなく勝っちゃうじゃない」
なんか、猛烈に美紀が怒っている気がしたのは気のせいであろうか
「もしかして、怒ってる?」
恐る恐る聞いてみると
「そんなことない、ちょっと見られてる気がして」
見られてる?
「何にだよ、少なくても俺の部屋にはいないんだろ?」
俺の部屋にはなんの異常も危険物質も見当たらない。
「当たり前でしょう? あんたの部屋にいたら運ちゃんが気づくはずだから」
そういえばなんとなく忘れていたが運も弱いけど神様なんだよな。
「おかしい、なんか近づいてくる」
はい? 近づくってここにですか?
「それってかなりまずいんじゃ……」
もしそれが神様ならかなりまずい、運はいないからこの前の技が使えないし、そもそも俺が本調子ではない。
とりあえず刀をっと思ってベットの近くに置いてあった刀に手を近づけた途端どこからともなく声が聞こえた。
『神は汝らに罰を与える、神獣を倒した罰を』
この声は確か創造神の隣にいた、罰の神の声。
「神獣の罰だって? あれはあいつが悪いんじゃないか!」
神獣、多分俺が最初に倒したやつのことだろう。
『ふふふ、これは単なる小手調べ、こやつにやれればそれまで、倒せば我が相手をするまで』
人の話を聞きやがれと心の中で叫びながら神の話を聞く。
『では、せいぜい頑張ってくれたまえ、それとお前のパートナーはもらって行くぞこいつがいると面倒なんでな、さらばだ』
運を連れて行くだって!?
「てめぇ、どこだ! どこにいやがる! 運を返しやがれ!」
「無駄よ、もう気配すらない」
こんな時でも冷静な美紀はまっすぐ一点を見つめる。
その先にいたのはやはりあの時の神獣だった。
「神の戦士……今度こそ……」
久々に頭に来たよ、これは
「……覚悟」
「うぜぇよ」
俺は刀を横にひと振りした。
すると、そこから衝撃波みたいのが神獣を斬り裂いた。
「な……に……」
何をされたかわからないまま神獣は消えていった。
ちなみに今のは自分でもできるとは思わなかった。
「……なあ、美紀、罰の神ってどこにいる?」
パートナーを連れていかれた怒りで頭ん中いっぱいになってしまい冷静な考えができなくなっている俺が美紀にそんな質問をすると
「ち、ちょっと待ってよ、神様の居場所なんて誰も知らないわよ」
そうか、知らないのか、困ったなそれじゃあ探さないとな。
「そうか、じゃあいいや、探す」
「探すって、あんた一体どうやって……」
それもそうか、どうやって探そう
「とりあえず、今はじっくり考えてから体制を立て直してからでも遅くは―――」
「遅い、遅すぎるんだよそれじゃあ」
そうだ、そうなんだよ、それじゃ遅いんだ。
「いいことを思いついたぞ、ちょっと行ってくる」
「は? いいこと? あ、ちょっと待ちなさいよぉ」
俺の思いついたいいことそれは……
「出てきやがれぇ! このクズ神がぁ!」
外で叫ぶことだった。
「なぜ、我が外にいるとわかった」
「わかるさ、運が懸かってるんだから」
本当の理由はさっきこいつが言った言葉にあった。
さっきこいつは俺に神獣を倒したらうんたらと言っていた、ということはこいつは俺を見張っていた。
「まあ良い、人質は我が手にあるのだからな」
「このヤロォー! それでも神様か」
「ああ、我は神だ、故に何をしても許される」
このゲス野郎と言いたかったが言えない、運があっちにいる限り……
「運はどこだ」
「ん? ああ、あいつか、あいつなら我の与えた罰を受けてそろそろ死ぬかもな」
……死ぬ? あいつが?
なんであいつが死ななくちゃなんねぇんだよ。
「早く戦おうではないか、戦士よ」
誰だ、誰のせいであいつが死ななくちゃならない。
「聞いておるのか、戦士よ」
俺か……俺が弱いせいか
「来ぬなら、我から行かせてもらうぞ」
俺のせいで誰かが傷つくのか?
俺が弱いから誰かが傷つくのか?
俺が……俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が…………俺が弱いせいか?
「もらうぞその首ぃ」
「あぁあぁあああぁああああぁぁあああああああぁぁああああぁぁぁああああああああああああああああああああああああ」
俺の中で何かが爆発したような、大切なものが壊れたような感覚がした。
同時に紅の炎が俺を包み込む。
「な、何!?」
神は俺の炎によって弾き返された。
「許さねぇ、俺は俺を許さねぇ、俺はあいつを、運を守れなかった俺を許さねぇ……そして、俺はあいつを苦しめてる、てめぇを許さねぇ」
「ふははは、良い、良いぞ少年、これだから楽しいのだよ勝負は」

「一つだけ聞く、運はどこだ」
今にもこいつを殺してやろうと思う気持ちを押し殺して聞く。
「我が負けたら返してやる、なに、安心しろ死んでいても死体だけ返してやる」
「……そうか、今からお前を倒すけどいいよな? 答えは聞いてねぇけどよ」
ああ、こんなに激しく切れたのは初めてだ、これも運だからだろうか。
「今はそんなこと関係ねぇか」
なんだかわからないがただ目の前の神様が猛烈に殺りたい気分だよ。
「さあ、始めようぜ? 第二ラウンドをよぉ」
俺は月刀を手に取った。
すると、今までは手に取ってもなにも感じなかったが、今度は違う刀から情報が頭に入ってくる。
「そうか、今の状態は暁っていうのか」
暁、全ての月を赤く染め月の存在感を強める、つまりこの刀の力を強くしてくれるみたいだ。
『神は汝に罰を与える、神と戦う者は常に傷つくと』
それは、罰なのか?
「掟が我に与えた、最後の力、それは掟と罰の混合」
掟と罰の混合、それがあいつが残した最後の力か。
「弱いな、弱すぎるよお前」
そんなんじゃ俺は止められないねぇよ。
俺は刀を三日月にした。
そして三日月を地面に叩きつけた。
「血迷ったか少年、自ら刀をダメにするとはな」
血迷った? 違うな俺はこの刀の未知なる力を使おうとしてるんだよ。
「違うな、この行為はお前を確実に倒すための行為だ」
叩きつけた刀の刃は粉々になった、そこに俺は紅の炎を放射した。
「な、なんだそれは」
動揺する神、当然だろう。
だってこの技は初めて使うんだから。
「言っておくけどな、この形状はまだ一段階だ」
そう、これはまだ一段階、俺はまだ段階を二つ残しているんだよ。
あえて言うならこの段階は『力』だ。
「それがなんだっていうのだ、我は神だ、そんなもの消してくれるわ」
消せねぇよ、お前んかじゃ俺の炎は消せねぇよだってこの炎は……
「あいつとの絆の炎なんだから」
まだあいつは死んだわけじゃない、だから俺はあいつを生きたまま取り戻す。
これは俺が決めた、俺とあいつの『運命』だ。
「神様さんよ、こうなったら俺は力のコントロールができない、運を返して逃げるなら今のうちだぜ?」
ちなみに今のは脅しではなく、本当のことで、もしかしたら俺が暴走するかもしれない危険な技だ。
「ならば、我もすべてを持ってお前を止めよう、我は罰の神なり、今我は掟の神の力を持って目の前の罪人に罰を与えよう、罪人に永遠の罰を」
神が唱えた途端、周りが冷え凍りつきやがて俺の体を襲う。
まだ弱いな、火力を上げるか。
「我、我の力を持って我が身を守る、我が身を犯し永遠の氷は我の炎の前では紙ように燃えて消える」
俺も頭に流れる技の中に今の状態を脱するものがあったので使ってみる。
すると、刀から噴射する炎の威力が増し俺を包む氷を紙のように燃やす。
「ほう、我が技を切り抜けるか、よかろうもう少し力を――――」
「もうやめよう、お前じゃあ弱すぎる、さっさと運を返しせ、そうすれば消しわしない」
我ながらなんてことを言っているのだろうと思った。
こいつは最低なやつでも神様なんだ。
これも暴走し始めたってことなのか?
そんなこと関係ないか、とりあえずこいつを倒せればなんでもいいか。
精神まで暴走しかけたとき後ろから美紀がOKサインを出した。
「そせぇぞ、もうちょっとでけっこう危ないところだったんだぞ」
「ごめん、なかなか見つからなかったんだもん、運ちゃん」
美紀には俺が神と戦っているあいだ運を探してもらっていた。
その美紀が今、運を連れて戻って来た。 もちろん生きているままで。
「どうやら運は戻ってきたみたいだな、どうする神様? このまま死んで罪を償うか?」
現在進行形で暴走し続ける俺の体をなんとかコントロールし、神に問う。
「クッ、ならばここにいる全員消えてなくなってしまえ! 我掟の神の力を得て汝らを罰する、ここにいる者すべてを闇に沈めよ」
神が言うと地面が暗闇に変わり俺たちを包む。
美紀たちは寸前で木に上り避けた。
俺は避けずに闇に飲まれる、だがこれでいい、これで俺が吹っ飛ばされることはない。
「運も戻ってきたことだし、これからは本気出して行くぞ!」
俺は刀から噴射している炎の威力を高めた。
「この技はフェイズ2、第二段階、『原点』だ」
『原点』にすると砕けた刀の破片が、地面から砂鉄が、俺の周りの鉄という鉄がこの刀に集まってくる。
「な、何をした!」
神が叫ぶ、だが俺はそれを無視して集中を続ける。
やがて、俺の周りに集まってきた鉄は炎の周りをグルグル回り始める。
「我、星を操るものなり、我はこの力を持って今星を作ろう、我は星を創りし者、鉄よ我のためにその身を捧げよ」
唱えると炎は威力を増し神へと伸びていく。
「そんなもの避けられないとでも思っ――――しまった! 闇が足を掴んで動けぬ!」
愚か者といえばそこまでだが、あの神様はかなりの天然ぽいな。
だが、そのおかげでこの技がなんの支障もなく目的を達成できる。
「星の原型の足枷となれ、行くぞ!」
伸びた炎が神様の胴体を貫通する。
「ウグッ」
苦しそうに声を出す神に止めを刺す、炎の周りを回っていた鉄が神の体、頭、腕、足、いろんな箇所を貫通していく。
「自分が犯した罪をその命で償え、神様だからってなんでも肯定するんじゃねぇ」
神の体は灰になり風のなかに消えていった。
「終わったみたいだね、カミヤ」
意識を取り戻したらしい運が俺に話しかけてきた。
「……」
俺はなぜか運を抱いた。
まだ、意識が暴走しているのか、それとも心から運を抱きたかったのか……まあ、前者だろう。
どちらにしろ俺は運を抱いた。
「カ、ミヤ? どうしたの?」
顔を赤くしながら言う運。
そんな運に俺はただ一言
「無事で良かった、すまん、俺が、俺がちゃんとしていればお前をこんな目に遭わさなくて済んだのに」
感情が昂ぶり、頭に浮かんだ言葉が次々と口から漏れてしまう。
そんな情緒不安定な俺に運は優しく言った。
「もう、カミヤったら、私はカミヤのパートナーだよ? こんなところでやられるわけにはいかないよ」
頭を撫でながら、優しく、そう優しく運は俺にそう言った。

強人弱神 5

強人弱神 5

運をさらわれたカミヤは怒りに燃え、月刀の力『暁』を使う。 罰の神を相手に今、カミヤと運が神様の頂点に走り出す。

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更新日
登録日
2012-09-26

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