海

人間とはなぜ苦しみがあるのでしょうか。
私は苦しみを感じる事が必要だったのでしょうか。そう、人生の苦しみには全て意味があったのです。
広大無辺な宇宙をやすらぎに満ちて遊泳している。もうそれだけでいいの。
ねえ、もうそれだけでいいのと、そうおっしゃってください。
人間の内部の襞をずっと奥深くへ潜っていくと、一体そこには何があるのでしょうか。
そして私は潜っている。
心の広大な宇宙の深遠へとゆったり降りていく。この神が創造した宇宙のさらに深遠な量子条件を満たそうとしていくのです。
そこで青く美しい海を泳ぐイルカに付いていく。この解脱して法悦的に身をくねらせ快方へと向かう意思の強さ。
海をたゆたい漂流しているその透き通った水面はとても穏やかであった。
一匹のイルカは私に同じ哺乳類生物として愛着を抱き、気持ちをやりとりし同調している。
この世界で私には一匹のイルカがいる。ただそれだけでもう他に何もいらない。
イルカは私の頭上を可憐に高く高くジャンプして、その生命の活動の密度を上昇させていく。頭上を美しい弧を描いて爽やかに飛翔する、その青空は一番の爽快さに澄み渡り魅せられていく。
私の頭上に天空の蓮の花がふわっと可憐に浮いていく。
イルカの心は全く天使のような清らかさで、私の心を青く広げて美しさで満たしていく。
イルカと私は一緒に大きな海を二人寄り添いながら泳いでいく。その神々しい心の浮き雲のたゆたい流れゆく情景は儚き微睡みの滴。深遠な宇宙は泰然にゆったり動いていくそのおおらかさを、神様はさりげなく教えていた。
イルカはこちらを見て笑っている。なぜそんなにあなたは優しいのですか。イルカの母性的な気遣いが私を元気に柔らかくしていく。
私を思ってくれているその暖かい気持ちは、大海にほっと胸を撫で降ろす脱心的な円形は神へ通じる青い海の道。
この道を行くと先には神が待っている。
ああ、そこで神はイルカと遊び戯れていました。私は一人人里離れた世界の遠く彼方へと来てしまいました。
神がイルカに食べ物を与えている。そしてイルカは神から頂いた食べ物を私にも与えてくれたのです。何という寵愛を受けた祝福なのでしょうか。
私とイルカは神の豊穣なる食事をして、生命を維持する喜びを感謝し合うのです。
天空にはキラッと太陽が燦然と輝き、海は甘く優しく微睡み溶けていきます。
イルカよ、私を見てふふっと微笑み、そっと甘えて体をじんわりとすり寄せてくる。
人生には苦労があるゆえに人間はそれに反動する強く気高い心があります。だからこそ人間は天空に例えようの無い感嘆すべき美しい調べを奏でようとする心の真理を知りました。
私のバランスとイルカのバランスが相思相愛に近似していく。遥か遠くにイルカの故郷がある真実をもうすでに知っている。
そしてイルカはこの青い地球上で最も美しい歌を奏でました。地球がゆったりと儚く薄らいで幸福の内にふわっと絶唱化していく。
そして創造する遣伝子の祝祭の歌は海の神ポセイドンに捧げられ絶唱されていく。そして地球上の万物が流れていく。
イルカは私に太古の細胞の記憶を活性化していく細胞の懐の深さを優しく甘美に思い出させる。
地球上の万物は私の神経細胞とつながらない。何という慈愛に満ちた深い安息なのでしょうか。
イルカがこちらの顔を見て、私の感情の有り様をさりげなく伺っている。
遠く彼方に蓮の花がぱっと咲いたのを見た。
蓮の花が青い海にひっそりと浮かんでいる。一遍の蓮の花をひそやかに海にふわっと浮かばせた、その一途で清純無垢な御姿を私とイルカに可憐に見せている。そう、人生の意味とはこういう事だったのかしら。
そして宇宙の偉大な悟りへとつながり、私とイルカを広大無辺の宇宙へと全てを忘却の彼方に昇らせていく。
私達は宇宙の大海で泳いでいるわ。何て得も言われぬ天体移動の大らかさに体はしばし安息していく。
私は宇宙に「おはようございます」と。宇宙は、ど~んと大きな音で答えた。
そして宇宙は低い声で言った。
さあ、私の所へ来なさい。
イルカと私は神の住み処へと迎えられた。さあ、この人生に大きな夢を。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-26

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted