湖の教会

湖の教会

あなたには、教えない不思議なおまじない。
広大な美しい宇宙に一つのおまじないがあるとしたら、あなたは冬眠できるでしょうか。
誰もいない孤高の山を1人で稜線を歩く不思議なオアシスに、何とあなたは答えますか。
「あなた、私に答えなんて教えてはいけませんよ。私、そんなの知らないから。」
山の稜線を抜けた先に1つの湖がありました。1つの湖の前に1人の女性が、不思議そうに優しい表情を浮かべてこちらを見ているの。
その女性の後ろの湖面から水しぶきが、天上へとはじけ飛ぶこの光景は、神秘的な威力を発揮した少女のおまじない。
少女はまたおまじないを唱えると、湖の水面が揺れながらざわめき、重力を失い水滴が一斉に上昇していく様は、神感させる水々しい感情の発露。
各々の水滴がはじけ飛んで浮き上がりゆったりと上昇していくのです。その美しき絵画を描きこの世の清らかさだけが満ちていき、穢れを全てを取り除くのです。
少女は湖の粒子を両手で持ち上げ、天空に放り投げて一気に上昇させるその奇跡の爽快さは、現実の日常では感じれない逸事だった。
こんなにも不思議な少女をこの世によくぞ誕生させたものだわ。
湖の水があった場所には一本の道が敷かれていた。この道が続く先には、美しく古めかしい教会がぽつんと現れた。
清らかな格式高いゴシック建築の青い教会へと、私達は厳かに進んで行ったのです。
少女は私にそっと手を指しだした。私もその柔らかい手を握り返した。何とも言えない優しく甘い感触に溶けていき、ただただあなたに寄り添っている。
ほの薄明りの教会の中には、青い時空の静けさがしーんとやわらしく漂っていた。
あなた、そこにいるのですね。
「あなたは来てくれた。」教会のオルガンがモーツァルトの至上のアリアを美しく奏で初めた。そしてオルガンの弾いていた少女が私に近寄って来て、そのか細い両手で体を抱きしめた。
ああ、少女はあどけない若くときめきに溢れた遣伝子を、私の前にそっと優しく示したのです。
頭上を見上げると、天上界の広大深遠な宇宙に、天の川が悠々と流れて、生命の神秘なメロディーをうっすらと奏でていた。
神の言葉がこの教会の青い静謐な時空で、そっと一言小さく囁かれた。
そして、私と少女は一緒になって、未来を見つめて厳かにそっとおまじないを語り始めるのです。
そのおまじないはメロディーになって展開して変容されていき、優美な音楽が聖堂の内部で荘厳に奏でられた。
この世界がたった一つに清められていく。
世界から苦しみが全て取り除かれていく心の有り様に、あの天上の世界は本当に今ここにあったのです。
翔けて煌めく天使も私たちと一緒になって、優美なモテットを軽やかに歌う、青い飛天に翔けて想像する、天から与えられた生命が、そして誕生する。
その時、宇宙は再び北極星を中心に自転をし始めたのです。
私と少女は手を握り合って世界創造の現場に立ち会うのです。
少女はおまじないを唱えると、教会は浮き上がり湖面を離れて飛び立って、上空へと荘厳に飛翔していった。天上界へ向けて、教会は青い霊気の静けさで清らかに、夜空をゆったりとたゆたい飛んでいる。
そっと現世を全て忘れさせて、教会は神と共に美しい天国へ行ったのです。
美しい純情な心霊が生まれる前の母胎に回帰していった。
そして、未来の時空に天から安らかな光がふわっと現れてきた。周りが明るく澄んだ神掛かった光に包まれて浮かんでいく。
ああ、何て美しいのだ。神掛かる例えようのない美しい光の中に神が存在していた。
ふんわりと柔らかい姿でこちらを優しく見つめた。
なめらかな心で完全に超越し解脱していった微笑を、ふわっと私によこした。
何だかこの世界に得も言われぬ至上の愛を感じていた。
その時神が私にそっと触れたのです。ああ、ありがとう、私は昇天するのです。
そして、少女はその私を見て感動して泣いていた。

湖の教会

湖の教会

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-25

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