邂逅

邂逅

ここは日が沈み夜が更けて、世界が寝静まった御堂にお坊さんのお教が、菩提の響音のように静謐な佇まいで、仏様の気をぼんやりと発しています。
何て心地の良い御堂内部の、仏様の静寂なほの暗い仏光のホノグラムは、宇宙的な深層冥界のやわらかき感触。
ほんのり暖かい仏様の声がじわりと聞こえてきます。なんて青き闇夜に美しい真の光を伝道する月の水々しい白い輝き。
あなたは遠くには行ってない。あなたではなくこの世界を遠くに行かせてしまうのです。
仏様の様々な優しいお教の問いかけに、1つ1つ丁寧に答えていきます。
鈴虫がしくしくと泣き冥界からの死人のか細い声も聞こえてきます。私はこの世を忘れるために来たのです。
お堂の暗闇の中で仏像はその大きな眼を見開いてじっと私を見ています。
仏像と一身同体になれる未知の神経はときめいて秘められた奥義が流れていく、宇宙的な解放に包まれた。
仏様は仏性を持つ素直な心を伝道し、まさに邂逅しようとしている修行僧に、この世に生まれてきた生命の意味の問いを投げかける。
それに私は注意深く考え解答を申し上げるのです。
仏様は私の解答に対して、この世とは思えない解脱した微笑を浮かべたのです。
完全なる安心立命に、人生存在を宿した無性の神経の美しさの意味を知った。
己を克服した人間の山脈上の夜空に煌々と浮かぶ、満天のシンフォニーが響いた。
こうして人間は大いなる天体設形者の思想によって、現世を忘却の彼方遠くに行かせることができるのだわ。人間の知性が及ばない偉大な心の設形者の思想を知れたのです。
今まで心の暗さでくもって認識できなかったあの世への1筋の光明が、この美を結集した目映い白光で奏でている。
意識が次第に薄れていくこの朧気な解明感。人間なんて、たかがこんなものなのです。光の言葉の暖かい道を知るのです。
冥界の青い月が大きく広がって沁みていく夜の海。海面をホタルがぽつぽつと弱く発光していく。
たった今からホタルは海上に翔る幻想の主へと成ります。
静まり還っていく海の水面に、ホタルは逸脱した心でこの世界とは思えないラインを描く。
ホタルの醸しだすさざ波が、心の内なる宇宙の大きな流れを表現して故郷に還っていきます。
何かの天体の重力の啓示が海の懐の爽やかさを助長する。
私のこの心は水となり自在に変身を遂げていく。夜空をほのかに飛翔する蛍に、人生の光の言葉のシンメトリーが解明される。如来の存在はかなた青天の中で安心立命に高々と醸し出された。
地球上にこのような安心が存在していたのです。ついに心の潮が満ちる生命の達成の時を迎えました。
この存在の意味深く計り知れない如情があった。そこに何という一筋の光が海から天に向けて放たれた。
私の人生の意味を朧気ながら懸命に教えようとしている。宇宙の安らかな柔らかさに包まれた。このままに私をそっとしておいてください。
そして私の意味が無くなりました。
1筋の光の形状が麗しくほのかに、仏様の啓示を行っています。地球に1人残された私の心の中の小宇宙に解かれた優美な悟りがありました。
さあ、あの世に行かせてもらうのです。夜の海は大きく静かなさざ波をたたえていた。
私の薄らいで無くなっていく存在。もう生きていないのです。
そう私をそっとしておいて、このまま死んでいたいのです。このままで安らかになりたい。
人間の行き着いた自然の彼方に広がる空、そして無くなっていく私の存在。仏様の啓示でこうして全てが解決されたのです。海に浮かぶ青天の中で、このままでそっとしておいてください。
流れ星がそれに答えて1筋の光を投げ返しました、私に流れ星がその意味を問うています。
解脱したその美しい期待の水面が揺らめいた。そして生命は満ちる蛍の満月のさざ波に応答して調和する仏様。
私への自然の解脱は安らかにやってきました。大きな世界を表現する人間の知性があった。この世界はあなたによって創造されたのです。
私はもう一人の世界の創造者になるのです。もうこの世から全て解脱している。
私のその素のあるがままの佇まいで、もう何もいらない、何も存在していない、そう、やっとあの世へ行けるのです。
遥かなる宇宙の大合唱が優しく聞こえてくる。宇宙は何という大いなる癒しのモチーフを奏でるというのでしょう。
私の生命は不思議な仏様の計らいとなった。蛍、星々、海、大空は密度を高め合い昇天する、あの世への清らかなリリシズム。
これは、私に対する一体何なのか。私と仏様の語らいは不思議な浄土の光に帰依した。
許されたのです。何もかもありのままになすがままに今ここに存在をしている。
これは私の一つのあり方であります。人生を仏様に助けて頂きました。

邂逅

邂逅

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-25

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted