蝶蝶

蝶蝶

なぜあの少女は蝶々を追い掛けていたのでしょう。なぜあの少女は蝶々を追い掛けなければならないのでしょう。
私はなぜあの少女をほっておかなくてはならなかったのです。
ああ、月夜に照らされた青白い宇宙に、蛍のこの世の微かな美しさが悲しい人生を。
あの少女は昔、私の娘としてこの世にいたあの少女に似ているのです。
もう遠く淡い過去の昔のように思える。少女の時代なんて存在していたのか、私にはすでに少女の時代なんてなかったのかもしれない。
少女がときめく女心の夢への一心なる懸けに、この生命の儚さを、この世界の移ろいゆく無常を感じていた。
私に何が残るというのだろう。何を求めようとしているのか。あなたは知らない。あなたは知ってはならないのです。でも私にはわかるのです。
少女のときめきはその一心で期待に高なる心を大空に投げかけた。
あなたは墓に向かって泣いていた。なぜなのですか。なぜなの、私に教えてください。あなたの語られなかったこの世界に美しい真理を教えてください。あの少女にとって蝶々とは、きっと亡き母親の幻ではなかったのかしら。あの少女が悲しげに蝶々を追う情緒の優しさ。果たして少女は蝶々をとれたのでしょうか。
あなたは母親を追い求めていた。蝶々が軽やかに自由に、この世界の難題を飛び超えていく姿に、己に足りない能力への少女のはてしない期待を代弁していた。蝶々蝶々と美しい御神体が融合する神の儀式は草原に咲くひなげし。あなたの草原は広く広く澄んでいます。安心なさってください。あなたは信じてもいいわ。
何度も蝶々と美しくお声を掛けた、その神様を見る神々しい威厳に満ちた御神体のゆらめき。
少女は蝶々に手を指しのべたその小さな美しい手。あなたはそこに蝶々が辿りつくのをずっと待っていた。
神様が蝶々をそっと少女の手にふわりと載せました。
少女は天性の純心な心で、天空に澄み渡る微笑をふわっと浮かべる。
蝶々はいとおしく、いとおしく少女の手に寄り沿うのです。
この蝶々を知っていました。少女はあなたを知ってました。
そう、蝶々も少女を知っていた。
少女にそのさりげなく合図する神の指し図の一握りの御経。少女は母の優しさ、子を思う親心を感じてしくしくと泣き、何だか私は悲しいのです。私は悲しくなってきました。
母なる蝶々は自然を軽やかに飛翔して移り変わり行き、木々の葉は新緑に満ち溢れ、鳥達はその新緑にはっと春の訪れを知るのです。
蝶々の季節は移り変わり、少女の心も移り変わるのです。
少女の心は諸行無常に変化し、再生し生まれ変わり、復活する。
母は少女に対して「安心してください、見守っています。大丈夫、私はいつでもあなたの味方、あなたを助けます。あなたはとても強い子なのです。大丈夫、私はあなたを信じていますから。さあ、自信を持ってお行きなさい。」
心がほっとして自然に泣けてきました。私は一人ではないのです。
少女は母さん母さんと叫びました。少女は手を天空へと高くつき上げた。
蝶々は我が子を暖かく見守るように、可憐にあの世の不思議な光を発し優しく優しく飛びまわった。
少女は蝶々に母を見る優しい心の弾力性を持った。そして、この母の愛情に答えていた。
少女は何にも変えがたい母の追憶に、心が丸く丸く自身の心の旅路はさわやかだった。
大きな声でありがとうと言った。何という美しい感情の水々しいゆらぎなのか。少女の心は大空にそよぐ美しい羽根となり、少女自身でしっかり生きていこうと自立する心を示していました。
私は少女が復活するのを我が事のように感じ、得も言われぬこの世界のさわやかさを感じていた。少女はこの時から逞しく夢を追う少女へと生まれ変わり変身したのです。
実は蝶々を母にしたのは、神様だったのです。
少女が元気になるのを見て助けられた。まだ少女は決して神様を知らなかった。
優しい心を授けられたのです。それを大事にしたい。この世界は優しいのだわ。この世は捨てたものではありません。この世界にはまだいい心があるのです。この世界にはこんないい事が起こるのですから。
少女が立派にやっていることを誉りに思います。母として。蝶々になって娘に会えてよかった。この私が神様に御願いをしたのです。
少女は私を知ってはならない。

蝶蝶

蝶蝶

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-25

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