胎児

胎児

一度宇宙の外に行ってみたい。宇宙の時間と空間を超越するのです。
全く何もない無の、時間と空間、素粒子もない世界で、何もかも私は存在していない。無になることは私の生命の願いへの成熟なのです。生命は無になるためには宇宙の果てしない外へと突破しなくてはならない。宇宙の果ての外側に行き存在の意味を確かめる、なぜ存在しているのか、私は私に対話するのです。
もし宇宙の外に出れば私の体と心と脳は一体どのような変化を起こすのでしょう。
時間と空間の全く存在しない場所へ行って、人間の脳はこの世界に存在できるのでしょうか。だって人間の脳はこの宇宙の素粒子でできているのですから。
では宇宙の外は何でできているの。この時空を超越して宇宙が誕生する以前の状態を想像し、そこに存在してみる。
意識の認識が神の次元に到達できていないがために、実際に宇宙の果てしない外側は存在しているのに、人間には決して想像できない。宇宙の深遠、それは明らかに人類を超越した彼方遠くの次元を神様のみが意識できるということ。
では私はこの世界に存在する前を想像できるのでしょうか。私が受精卵であった時の記憶は存在するのかしら。
精子と卵子が初めて合体した時の感触をあなたは思い出そうとしているのです。精子と卵子の初めて合体した時の記憶を憶えていますか。
でも私は胎児だった時の記憶は憶えている。胎児の時の私を想像することはできます。羊水に包まれて優しく暖かく生命を母親と一身同体で、心と体を触れ合わせて生命をしている。その時私には煩悩等は全く存在していない、ただ一つの生命だけが存在していました。あたかも心と体は素粒子だけで存在をしているかのように。
母親の羊水、おなかの感覚はどのような感覚でしたか。へその緒の感覚はどんな感覚でしたか。
どのような色、におい、温度、音と味がしていましたか。私は母親の羊水に浮かんでいたのか、それとも飛翔していたのか。
じっと想像してみるのです。宇宙の外よりもずっと簡単に想像できるような気がいたします。子宮で母親の体を感じて母親の発する声をじっと聞いていた。母親の声は優しくて暖かく穏やかだった。この宇宙で生まれたばかりの原始の海の平和な世界。
その時海の音が微かに聞こえていた。朧気にうっすらと聞こえてくる主の声は母親なのでしょう。特に母親とは強い絆があるのではないか。
私は胎内で日々どんどん成長していくのです。手足体が大きくなっていくのを感じます。
母親の心臓の鼓動がどくんどくんと音をたてて聞こえる。私の好きな音楽は、母親の鼓動。そして母親の血流の流れが手に取るようによくわかる。何て力強くて安心するのだろう。
胎内にいる私は母親の気持ちの変化がよくわかります。母親とは一心同体で動いている、それは羊水に見守られてくっついて動いていく感じだった。母親の体温の暖かさを感じて、もう心からほっとしていた。母親の羊水は甘かったの。
私が母親をそっと優しく手で触ってみましたわ。
すると、母親は笑ってた。
その可愛らしい笑い声は、天上に青白く美しかった。そのか細い笑い声を聞くのが本当に好きでした。
母親の性格はなんだかほの白い仏様のような薄らいでいくのです。母親は私に子守り歌を優しく聞かせていた。優しい、その美しい歌声をうっとりして聞くのが好きだった。ここは青白い寧波が漂う天国なのではないかと感じていました。
私の才能と性格はここで創造されていく。核となる本能と素性はまさしく母親の子宮で完成したのです。
母親の優しい宇宙にこのままずっといたいと思う。
そっと母親にたずねました。「あなたは私がどのような子供で産まれてきてもらいたいのですか。」
母親はいいました。「普通でいいのです。ただ普通の子供でいいの。」
「わかりました」と答えると、それから母親は、天上の青空に、そっとこの世にお誕生を告げる歌を歌い初めました。
この無限に伸びていく無重力の空間に赤ちゃんの時空が意識され、母親の理想的な人間がいることをうっすらと感じていた。
母親はふふっと優しく笑っている。母親は私の事をずっと気遣ってくれている。これがまさしく神なのではないか。そうなの、神とは母親ではないか。ここまで私を思い助けてくれる人間はこの世界にいるのでしょうか。
何かほっと感動して安らかに、私はこの世界の初まりを迎え心の準備をしたのです。

胎児

胎児

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-25

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