天の川

天の川

天の川にふんわりと浮いて流れていくの。
思いのまま、気のむくまま、流れるままに世の人々の意志を省き、ただただ川の流れに身をまかせます。
人生はこれでいいのです。そのままにして、決して私に何もなさらないでください。この状態こそが一番気持ちいいのです。
川の流れに身を任せて流れ続ける快適な心模様、これから私のすべてを流すのです。人生でのいけない悪い心はすべて川に流してしまいましょうね。
何も無くなったその後に人間は一体どうなるのでしょう。そうなのです。人間は清められた完全な人間となるのです。
人間は遥かなる太古の昔、母親の子宮にいた頃の胎児の物の考え方をし、心の万物は全て空と化して見晴かし澄み渡っていく。
こんなにも穢れなき澄んでいる心は一体誰の心なのでしょうか。本当に不思議、私じゃないみたい。
こんなにも生まれ変わったおたまじゃくしが泳いでいて、世の中が全くの別次元の始まりで新しく進行していく。
ウキウキワクワクします。夢叶う未知なる人生へのとてつもない期待感に、もうすでに忘れていたこの人生で大事な若気の迸る感覚が高純度でがむしゃらに研ぎ澄まされていく。
何でこんなにも世界とは感嘆すべき色とりどりの無限の印象光景で、ぽんぽんと激しく飛びはねる生命競演の勇しさなのでしょう。
何たる天命絵巻の最上級のゴージャスさ。
たかがそんなことであの子宮にいた頃の記憶のやわらかき、優しい、いとおしさの感情のままに。
さあ、誘う、お伽噺話の遠い彼方の音戯の陰陽道は淡い幻影へと、例えようのない不思議な懐かしさに私は泣いた。
そしてあなたも泣かされてしまう。
その純粋な生まれたばかりの裸のあなたが好きだったと言ったのなら笑われるのかしら。
そんな人間の原罪は私にとったら大したことではありません。創世記のアダムとイブを見てごらんなさい。人間とは罪を犯してしまうものなのですから。
地球上で誰にも干渉されない私だけの住み処にいます。大河は流れ始めたら自然に確実に流れていきます。
私の川は天の川となった。天空の夢の中のミクロユニヴァ―スにいるのです。
天の川は安住の癒しを与え、そこから眺めるオリオン座は異様に立体的で雄大なフォルムを持った逞しき御姿でした。
ああ、頼もしき一番の明星に付いていって寄り添える、このなだらかな地平線の感情。
私をそんな気持ちにさせるのは、天の川のとてつもない巨大さに肉体を全て委ねているから。
そして私は不思議な夢見る夢子ちゃんになっていく。
天空を見上げると月が青白く生命の慈しみを浮き出している。
森は深い静寂に沈静し、清らかで荘厳なお教を幽玄に朗々と奏でている。
私は何をそんなにまでに一人崇高な魂の静寂に、身も心も揺らめいてこの世から薄らいでいくのでしょう。
私の存在は夢の中で上昇して舞を奉げる一輪の蓮の天体運行となり、異次元に躍動する祭りに血は騒ぐ。
私のプロセスとは、どんなプロセスなのですか。
そんな予定調な閃きの順行ではなく、もっとそれは大胆に神掛かった宇宙の閃きを必要としているんだわ。

あなたは何てそうらん節を踊るのが似合う女性なのでしょうか。まだ生きていた若かれしあなたにそうらん節を踊らせてみせたかったわ。
もしあなたが知っているのは、それは天の川に浮かぶ絵巻の大伽藍上での、天性が成せる生命の仕組みなのです。
人間の中にはその宇宙の広大深遠な模範解答がもうすでに用意されている。
私にはわかるの。何がわかるの。人間が神掛かる為の条件なのです。
神掛かる為の私の条件は、神のみぞ知る宇宙に浮かぶ天の川銀河へと敬虔に祈る事でした。
たった今天の川を悠々と泳ぎどんどん身も心も上昇している。そして禊の女の腹を括った決心を抱く。これは神様から課せられた水泳教室の試練なのです。
そんな天の川の記憶は、私の生命を原点回帰する彼方遠い日の娘時代の情景なのです。
その昔に母親が我が子供を思いやる優しい心があった。
私はあなたの娘として大事にされている、いとおしき優しさに包まれた。
この世に今あなたの娘が生きている事実は、なんて森の静かな動きのふわふわ無重力のファンタジーなのでしょう。
あなたのおかげでもう私は疑いようもない敬虔な修道女となれました。今でもあの育ての親であるシスターが私を大事に思ってくれている安らかさに心を休めます。
そう、オアシスの水のようにゆったりと休みます。
シスター、あなたの中には女神の化身がいたのではないかしら。まだそれしかわからなかったのです。
今ある私の理解ではシスターとの巡りあわせの意味について、そんな解答しか持ち合わせていませんでした。
そんな理性が成せる殉教に見上げる、天の川の広大な時空の流れがいとおしく好きになっていく。
なぜなのでしょうか。
そんな小さなひとときが、私にとっても大事な時間だったのです。
そんなお伽噺話の幻想は通用するのでしょうか。まさに神様が差し出した問題への解答を、私は少しづつ解り初めて知性が進化しているのでしょうか。
天の川の流れに人生の全てを身にまかせて良かった。
どんどん森の木々が私の頭上の天空を、美しい霊心の身脱性と共に飛翔するように、儚き淡く流れていく木霊との対話。
そこにある薄暗い木々の佇まいは神妙に幽玄と、しんとした静まり還った母性の高密度な精霊の居場所。
そうした生命の奥ゆかしきにあって、伺い知ることのできない、未知なる清らかさ、それは創造主の心。
さあ、精霊が生まれます。

そうして木々達は天上界の天国に憧れて思いを果たそうと伸び続ける。
この森の生命へと還る精霊の住み処があった。

天の川

天の川

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-25

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