砂の怪物とある少年の幻想

大きな時計台のような、普通の何十倍もあるような、砂の城がたっている、そこは私の家だ、そこでは私だけがまともな思考を有している。といっても私もへんてこな宇宙服に身を包んでいる。家にはしゃべる時計と、ほとんど寝てばかりのカエルの形のテレビしかいない。カエルの形のテレビは噂話しかしないし、しゃべる時計は、目覚まし時計で、本を読み聞かせてくれる事もあるし、博学だが、ともかく急にわめく事がある、とても古く、一部がさび付いている。それらの生活は陽気でたわいのないものだ、重苦しくもないし、特におもしろい事もないが、窓から見える景色はバラエティ豊かだ、都会も見えるし、砂漠も見えるし、海辺も見えるし、宇宙も見える、だけど……たった一つの問題は……毎朝、私の家の玄関に怪物がくることだ。
「きたよ」
カエルが声を出すと同時に、怪物がチャイムをならす。いつもの光景、カエルはまた目を閉じ、砂嵐だけの映像をモニターに流す。玄関をあけると、砂でできた人型の怪物がたっている、もはや友達といえるほどに、彼と長く会話をした、けれど彼は同じことしかいわない、だからいつまでも友達にはなれなかったんだ。
「おはよう、どうしてきたの?」
「お腹がすいたから」
いつものことだ、彼には、欲求しかない、そしてそれを打ち明ける事でしか、彼は彼の形を保つことができない。
「それだけですか」
「それだけです」
「また明日きますか」
怪物はコクリとうなづいた、てっぺんからバケツをかぶって、赤い木の実が目で、鼻は流木しけっている。口はニッコリと弧を描いた穴があいている、私は溜息をついた。彼は食事を必要としない、いつか彼のために食事を出したけど、彼は家にはいってこないし、食事に手を付けることもない。ただ、数分ごとに同じ言葉を繰り返すのだ。次の日も同じ光景だった。
「きたよ」
カエルがゲコゲコいってまた眠りこけている、珍しく今日はモニターに、海辺の映像が流れてきた。
「おはようございます、挨拶がしたくて」
「それだけですか」
「いいえ?」
「え?」
「いいえ?」
「そんな……ばかな……」
いつもと違う回答に、少年は、少年たる私は少しの恐怖を覚えた、途端にこの怪物に何かをしなくてはいけないつもりになって、妙な感情がわいてきた。それは愛着だった。
「思い出してください、それだけではない事を」
私の体の右胸のあたりを見ると、時計がはまっていて、残りの時間を示しているようだった、しかし針は複雑な形状で、しかもいくつもあるものだから読み方もわからない、終わりがわからない。溜息をついて前を見ると、開け放たれたドアの向う、いつの間にか怪物の姿も影もない、あの怪物は姿をけしていて、そこには砂の城と同じように、彼の足跡との砂がかたまっているだけの等身大の大きな山が出来上がっているだけだった。

砂の怪物とある少年の幻想

砂の怪物とある少年の幻想

漠然としたイメージと雰囲気のみでつくったお話です。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-25

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted