貧弱な夢

「いいわけって何の?」
「できない事って意味じゃない。あなたが無邪気である理由」
「は?」

夢には夢のノリがある。私は夢の中では病人だ。何にもなれないし、何にもならなくていい、子どもの姿で、大人たちに心配されている。
「もう少し精神的に成長しているはずなのに」
自分のつぶやきは、病院の先生にも、看護師にも届かない。たった一人、私を肯定する存在がいる。それは人形だ、小さなころ自分でつくったうさぎのぬいぐるみ。その時私はまちばりを何本も指やてのひらにさしてしまった。私は不器用で、意図せずいくつも怪我をしながらそれを完成させたのだった。その時の怪我が原因で、私は夢の中でずっと入院し続けている、子どものままの姿で、白いシーツのかかったベッド。うさぎのぬいぐるみを抱えたままで。

主治医は丸眼鏡のおせっかいやき。眼光鋭く体は細い。しかし肩幅が広く、眼鏡を触りながらしゃべる語り草は、へんてこへなちょこなことをいっていてもそのしぐさから妙な説得力をかもしだしたりする、私の中のイメージでは卑怯な人、実際はどうかしらない、なぜなら肩書が医者だからだ。
「お酒をのみすぎてはだめですよ」
「飲んでないわ」
「糖尿病になりますよ」
「そんな年じゃ」
「年齢の問題ではありません、なぜならあなたの体を見てください、あなたは悪い子ですね」
私の右手に握られていた発泡酒は、瞬間コーヒーカップにかわった、中を覗きこむと、お腹に抱えている兎のぬいぐるみがめにはいった。広い病室、患者は私一人、窓際にはカーテン、4人ベッドのどこもシーンとしずまりかえっている、それは私の中の創造的な本性を掻き立てる、前のベッドにはカエルの人形を置こう、右の奥にはネコ、右隣には犬を置こう、そうすれば、全て解決する。そのとき、兎のぬいぐるみが警告をした。

「時間よ、チャイムがなるわ、ほら聞こえるでしょう、おおきなのっぽの古時計」
「じゃあ、そろそろ起きなきゃ」
「まって、あなたは言い訳をしなければ何でもできる、目を覚ましても覚えておいて」

「は?」

私は目を覚ました、兎は嫌な奴だ。はじめての私の創作物。私は会話を反芻する。
「いいわけって何の?」
「できない事って意味じゃない。あなたが無邪気である理由、あなたはその無邪気さをみないようにしている」
「は?」
私は、テーブルに突っ伏してよだれをたらして寝ていたことに気がついた、すぐに顔を洗おう、そして、ポエムを発表しなければならない、誰も見ないものでも、私のポエムを。初めて人に告白したときも、人に感謝を伝えたときも、大げんかをしたときも、いつだって私は私の影を見た、なんでこんな人生なんだろうって、だけど、夢の中ではちゃんと見ていたの、兎は私だ、病院は世界だ、現実に戻るために、夢は必要だ。

貧弱な夢

貧弱な夢

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-24

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