爆弾

 爆弾がある。ダイナマイトみたいなのを重ねた上で海苔巻きみたいにまとめて、電光の数字盤みたいなのをつけて、青いコードと赤いコードを伸ばして「さあ、どっちを切りましょうか?」と威勢よく言っているような、いわゆるこてこての時限式爆弾だった。
 真っ白な部屋のど真ん中にそれはあって、私の片手にはペンチが握られている。
 私はその部屋を見渡してみる。その部屋には爆弾以外に何もない。扉も窓もない。気づいたらここに放り出されていた。今流行りのデスゲームかなにかか? だとしたらずいぶんと雑である。爆弾の説明すらない。いや、何をすればいいのかなんてすぐにわかるけれど。
 私はおそるおそる爆弾に近づいた。爆弾につけられている電光の数字盤は残り時間がもう五十秒ほどしかないのを知らせていた。おいおい、急かし過ぎだろう。私は少し焦りながら青いコードと赤いコード、どちらを切るべきかを考えた。しかし、特にこれといったヒントもないわけで、こんなのでどちらが正しいコードかなんかわかるはずがない。
 だから、いっそのこと適当に切ってやることにした。
 私は目を瞑り、無造作にペンチを突き出して、そしてパチンとコードを切った。
 目を開けてみると、どうやら俺は青いコードの方を切ったようだった。
 数字盤を見やる。時間が進むのはまだ止まっていない。
 どうやら間違いだったようだ――と落胆する前に、はたっと気づいた。普通は間違いのコードを切った場合、その場で爆発するものではないのか?
 私は試しに赤のコードも切ってみた。数字盤はそれでも止まらなかった。何がどうなっているのだと目を丸くしているうちに、数字盤の表示は「0」になった。
 しかし、爆弾は爆発しなかった。
 私は爆弾を持ち上げてみた。えらく軽かった。振ってみる。しゃかしゃかと安っぽい音がした。強く振ってみる、しゃかしゃか音がするだけだ。何も起こらない。
 もう意地になって、思いっきり壁に投げつけてみた。爆弾は粉々に砕け散って、プラスチックの欠片が床に散乱した。それはただの玩具だった。
 それから何も起こることはなかった。
 それはずっと、ただの玩具だった。

爆弾

爆弾

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-23

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