アイドール

ある魔女がいました、とても長生きで、千年いきました。しかし生きる事につかれ、丁度1000年の節目に悪魔のような実験を思いつきました。自分が500年ともに寄り添い、魂を植え付けた人形、その人形の魂に自分の代わりをさせ、あと1000年の命を変わりに生きるように命じたのです。実はその人形が私なのですが、私は、もう疲れてしまいました、だからすべてを白状します。私が魔女を殺し、彼女に成り代わりました。彼女がそれを望んだためそうしたのですが、その日から私は常に罪悪感にさいなまれ続けています、ですから、告白させてください、と同時に、これは魔術でもありますから、ご注意ください。

 一般的な、健康な肉体を持つ人はもとより、近頃機械の肉体、人造身体が流行していますね。それによって人間は、元の身体より優れた能力を発揮する事が出来るようになりました、勉強なども苦痛を伴わないものになりました、しかし、人造身体を手に入れた皆さんに注意があります。新しい肉体を手に入れた皆さん、皆さんの中にも100年ほど生きた人もいるでしょう、素晴らしい事です、何不自由なく、きれいな肉体に生まれ変わる事は……。ですが考え直すことも必要になるかもしれないし、この話が何らかの教訓になるかもしれない、そういう思いで、そういう皆さんも、この話を聞いてください。私はもうあと100年生きなければなりません、ですが、たった100年と感じられるようになりました、もともとは1000年生きなければならないのですが、私は人形の身で、あまりに退屈な人生なのです、私は疲れました。そのため私は私に呪術をかけました。
(え?)
 私に呪術が扱えるのかって?私も魔女をだてにそれほど長い期間、もちろん私とて無能ではないし、魔女とともに育ったわけですから、それなりの霊力をもち、歩き回る事も、動く事もできます、100年という長い時間の中でただ何もせず生きて来たわけではありません。頭の中で研究に研究をかさね、時に人間の監視の目をさけ、勉強や仕事をしました、そこで私は、生涯で一番強力な魔術を誕生させることに成功しました。素晴らしい体験、達成感です。それはよしとして、その概要をいいましょう。その魔術の内容、それは私の命をまき散らし、精神を消耗するという魔術です。

 それは呪いです、私は呪いをふりまき、1000年の命を200年に短縮する事に成功したのです。これにより、私は永遠の命を放棄しました。それは、あらゆる生命をまき沿いにした呪いです。ですから、これを呼んでいるどこかのどなたかにも、この魔術の影響が現れるかもしれません。これを読んでいる皆さんの中にこんな症状のある方はいらっしゃりませんか?

・時々自分が自分でないような気がする。
・時々、ふっと何かのが下りてきたように、取りつかれたようになりすぐれた才能を発揮することがある。
・昔から才能がなく、長年出来なかったような事が、急に出来るようになった。
・自分の人生が豊かだと感じられるようになった。

皆さん、皆さんの中に私はいるかもしれません。それは奇妙な感覚です、それが私であり、私の魔術の正体です。害はありませんが、ただ一つの事に注意をしてください。
私が私の持主を殺した記憶が、甦るかもしれません、私は自分の魂を分解し、世界中にまき散らし、そのことによって寿命を大きく縮める黒魔術に成功したのですから。ですから、あまりに簡単に生きられてしまうという事が退屈だと感じる、私の苦しみも同様にあなたに乗り移ったかもしれません、ですからこれを読んでこんな症状のある方は、これから息苦しさを感じるかもしれませんが、それは私が寿命を縮めたためです、自分勝手な魔術に巻き込んでしまい、申し訳ございません。

アイドール

アイドール

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-23

Copyrighted
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