非売品CDとバンドのテーマ


彼女には私を超える私になってほしくなかった。友達だけど、ライバルで、
あの時、どんな風に歌ったのか覚えていない。一瞬だけ、私は、彼女を超えてしまった。
追い越すのも怖くて、追われ続ける恐怖はどういうものか、成績の上では知っていたから。
部活でもなくて、形もなくて、成果も目指す場所も、分かり合える人も特別な存在で、私たちは、そのころ、人とは違う習慣と習性をもっていた。

私は、日常に戻った、非日常が恐ろしくなったんだ。それは底なし沼なんだ。人はあのとき……学園祭で歌った私をみて、
素晴らしいとほめたたえた、だけどあれは、精一杯の私。スカウトも一杯きたけど、全部断った。私は歌を唄っただけ、作ったのは彼女……大親友だから。

親友はスカウトを受けた、彼女はいま、ゴーストライターもやっているし、作曲家として活躍している。徐々に名前を売るし
けれど彼女の戦闘スタイルは、常に平均的な位置をせめる。それは私から影響を受けたやり方だという。私がいつも努力を怠っていたのを
彼女は見ていたのだろうか、だけどそれは、見せる努力だけ、本当は、ちゃんと練習していたし、汗もかいた、不安でやらない事もあったけど……だけど私にとっては、日常と非日常の対比こそが大切で、彼女と言い合う冗談や、新曲の話、そっちのほうが歌よりも、音よりも価値がった。私たちの青春は終わった。けれどあの子は、まだその残像を拾って、形にしてくれている。

私は嫉妬はしない、彼女には才能がある、本物の才能があるんだ。だけど、ひとつだけわがままを言わせてほしい、たとえば、ある人にとって、それを知っている事が自慢で、自慢なくらい好きなものがあると、そう感じる人も多いだろうけど、近すぎて、まったく売れないのは嫌だ。でも、有名になりすぎて、人気になりすぎて、これ以上遠くに行かないで。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-22

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