ふたりの海は

はじめて海に行った。
海は蒼く透き通るものだ。
青空にきらめく太陽、きらめきを纏う濡れた肌。
僕は向日葵模様の浮き輪を抱きながら幻想を見ていた。

日が傾き海は静かになった。
海は燻んだオレンジ色に染まっている。
きたない。ヒトの欲と逸楽に塗れた色だ。
僕は向日葵模様の浮き輪を抱きながら現実を見ていた。

生温い潮風に包まれながら砂浜に座る。
「あなたはここの人?」
隣に座ったのは黒髪を靡かせた僕と同じくらいのオンナノコ。
「僕ははじめてここに来たんだ。」
僕の顔を見た彼女は頬に髪をペタリと付けて笑った。
「きたないとこでしょ?ここは。」
うん、綺麗ではないね。
海を見つめる僕たちの足元にはもうすぐ波が届きそうだ。

「わたしはね、ヒトを殺したの。」
そうなんだね。それでなんでここに来たの?
僕はまるで世間話をするように答えた。
「ここに来ると汚れたわたしでも生きてていいんだって思えるの。」
だってこんなに広い広い海も汚れているんだもの。
「君は死のうと思ったからここに来たんだね。」
あなたはよくわかってるのね。彼女の頬を静かに伝う雫は昼の幻想より美しい。
「どうやら僕たちは似た者同士のようだね。」


僕たちの足はいつの間にか燻んだ海に沈んでいた。

ふたりの海は

ふたりの海は

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-21

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