8月20日


透明なペットボトルの中に揺蕩う水、と その表面に浮かぶホコリ、を さらっていく涼しい風、が 撫でる エスの傷んだ髪、を 梳いている おれ。エスは ついさっき ジャガイモがたくさん入ったシチューの皿をひっくり返したばかりで、それを 野菜の角を切り落としていた、一時間前のおれが キッチンから顔を出して見ていた。

空の歌というには乱暴すぎる雨の音を左耳で聴きながら、右耳は電話の声を聞いていた。明日、一緒に朝ごはんを食べようね。ナントカ で待ち合わせ。十時四十五分ね。わかった。行けたら行く。最近は色んな 友達が流行ってる、セフレとか ソフレとかね。この人は ブレイクファスト フレンド、略して ブレレ、と一緒にスフレ パンケーキを 食べる約束をした。

白くま みてぇなデカイ犬が、目を覆うほど長い 毛の下で、小豆色の舌を出して、健気に飼い主を待っている。来なくてもいい、とか、きっと来る、ではなくて、はやく、ご主人の 暖かい腕に 抱きしめられたい と、それだけを思っている、可哀想で 可愛いヤツ。おれ 、コジンテキな事情で、犬に肩入れしちゃう節が あるんだけど、お前ね、飼い主が帰ってこない って気づいたら、もう そこにいなくていいんだよ。帰ってこない と わかっているのに、茶色い目で あっちを見たり こっちを見たり、ねぇ、お前の視力じゃ 絶対 見つけられないトコに お前のご主人は行っちゃったし、それは わざと だよ、ご主人は不慮の事故に なんか巻きこまれてない、だから、おれを そんな目で見ないで、牙を剥かないで ── おれは お前と 友達になりたいんだ。

セフレ でもソフレでも、ブレレでもない、友達になりたいんだ。そんなことを 思いながら、おれは 矢のような雨に刺されてる。

8月20日

8月20日

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-21

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