クマの会話

クマがあんまりにも、かわいらしかったので、
耳を引き千切ってみた。
勿論、お人形だから「ぎゃあっ」とも何とも、
言う訳ではないけれど、私には確かに、
クマのお人形が、「ぎゃあっ」と言う声が聞こえた。
お母さんは、「止めなさい。」とか「駄目よ。」とか
言うのだけれど、あまりにもそれが何回も続くので、
終いには疲れて叱るのを止めてしまった。
けれど私はそれでいいとおもう。
クマのお人形と私は、日中ずっと二人きりでいる。
それというのも、両親の仕事が忙しいからだ。
私は、クマと二人きりになれるので
嬉しいのだけれども、
いかんせんお母さんは心配していた。
心配なら、構うなりなんなりすればいいものを、
そうそうに躾を放棄して、
仕事にしがみついたお母さんを
私は正しいとは思わない。けれど、何も言わない。
それで「お母さんは正しくない。」とか「悪い。」とか
言ったら、私の人生は悪い方へと向かう一方なので、
私は今のこの状況をおとなしく受け入れることにした。
お母さんが、仕事でいそがしいのは仕方ない。
お父さんが、仕事で家にいないのは仕方ない。
そうやって、少しずつ、受け入れられない事を
受け入れていくことによって、
その度クマの身体を引き千切っていくのだ。
私は、スカっとしたすがすがしい気持ちになる。
気持ちいい、という事だ。
クマの人形の顔を見てみると、
この世のものとは思えない表情をしている時があるが、
気にしない。気にしてしまえば、いずれ、きっと
私の命はクマの人形に奪われてしまうことになる
と思うから。
「ぎゃあっ」と、クマの人形の耳を引き千切ってみた。
クマの人形の顔は、笑っていた。
この世のものとは思えない笑顔だった。
私は口を「ぽかん」と開けて、唖然として。
それから、クマの人形が不気味に喋る音を聞いた。


「君はね。君はね。
一生、檻の中から出られないよ。
一度、死んで。戻ってきてごらん。
そうすれば、何のしがらみも無くなるから。」


クマの人形は、それだけ言って沈黙した。
部屋の中が、シンと静まり返った。
私が何度ゆすっても、それからクマが喋り出すことはなかった。
私は、クマの人形を置いた。床の上に。
それから、部屋の外へ出た。
全速力で駆け出して、
「ママァーーーー!!!!!」
と、言ってその場を後にした。

クマの会話

クマの会話

クマの人形と一人ぼっちの女の子のお話です。 幼いころは無心で感受性豊かだったなあ、と思いながら書きました。 読んで頂けると、嬉しいです。

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-09-25

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