狭くて小汚い部屋の中

 写真集を読んだ。美しい景色に感動した。でも自分は狭くて小汚い部屋の中。
 アニメを観た。主人公の活躍と成長に胸が熱くなった。でも自分は狭くて小汚い部屋の中。
 音楽を聴いた。壮大な音色に酔いしれた。でも自分は狭くて小汚い部屋の中。
 ツイッターで知り合いのアカウントを見つけた。外で友達と楽しそうに遊んでいた。「いいね」を押した。でも自分はひとり狭くて小汚い部屋の中。
 グルメ雑誌を読んだ。各地の絶品グルメの写真に涎を垂らした。でも自分は狭くて小汚い部屋の中でカップ麺。
 アダルトビデオを観た。和姦系の平和なやつ。気持ちよさそうにセックスしていた。でも自分は狭くて小汚い部屋の中でそれを観ながら自慰。
 電話も鳴らない。訪ねてくる人もいない。もういつから扉を開けていないか。
 自己啓発本を読んだ。このままでは良くないと思った。扉を開けよう。思い切ってこの狭くて小汚い部屋の中を飛び出そう。荷物をまとめて、決心して、勇気を持ってドアノブに手をかけて――そのドアノブが、どう回しても開かないくらいに錆びついていることに気づく。
 悔しさと歯痒さで身悶えて夜を明かして、いつの間にか眠っていて、昼過ぎに涙と精液で濡れた布団の上で目が覚める。
 そんな狭くて小汚い部屋の中だ。

狭くて小汚い部屋の中

狭くて小汚い部屋の中

  • 小説
  • 掌編
  • 青年向け
更新日
登録日
2018-08-20

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