第5話ー2
『終末の地球』
メシア・クライストが命の危機を感じた時、周囲の者たちを巻き込み瞬間的に移動した先。別の宇宙の別時間軸の地球。
陸地のほとんどが海に沈み残った陸地には数キロにも及ぶ全長の木々が生えている。植物は巨大化して、その中に人類が絶滅してからの幾世代もの知的生物が生活したと思われる遺跡がある。
巨大な穴があり、機械でおおわれている。その縦穴は直接地球の核へ通じ、自動制御で地球の自転を保っている。
太陽は幾億回と人工的に延命されているが、生命体が肉体を捨てアストラルソウルという純エネルギーとなり高次元へ旅立ったことで管理する者がいなくなり、赤色矮星となっている。
数字で言えば数学的最大数グラハム数を幾度過ぎただろう。
宇宙でも寿命の長い惑星となっている。
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数キロを超える樹木が生い茂る森は、瞬時に焼き払われた。稲妻のように木材が縦にひび割れ、真っ二つになっていくさまは、この世界だからこそあり得る光景である。
その巨木群を焼き払っているのは、巻き髪がまだ子供らしさを残すロべス・カビエデスが手から放射する巨大な光の光線であった。
少年はそこに生命体がいるとは考えない。まさしく少年の考え通り生命は住んでいない。肉体を捨て最終進化した生命体は、アストラルソウルとなり、高い次元へと移動している。
この地球に残されているのは、以前、肉体を持った知的生命体が生息していたという文明の遺跡だけだ。
「ねぇ、もう全部焼き払っちゃおうよ」
駄々っ子のように両腕から光線を放射して、次々に巨木を薙ぎ払っていく。
それを怪訝な顔で見るのは、アンナ・ゲジュマンだ。
彼女は前世の記憶をその脳内に蘇らせてから、前世の姉であるホウ・ゴウと決着をつけたいと考えていた。
「無駄に能力で燃やすんじゃないわよ。馬鹿じゃあるまいし」
「僕は馬鹿じゃないですよ。この方が絶対効率がいいじゃないですか」
むくれる少年に賛同したのは、早く敵とやりあいたいガロ・ペルジーノだ。
人を殺すということ、傷つけるということに固着した危ない男の言葉。
「全員やっちまえばいいのさ。誰だろうと構わねぇ。要するにメシアってガキさえ殺しちまえばいいんだろ?」
見境のない言い方に、今度はエリザベスが怪訝そうな顔をした。仲間という概念がないのは分っていたが、ここまで人間性のない男と一緒にいるという環境だけで、ストレスになっていた。
「君は感じるはずだ。前世の姉の居場所をね」
と、唐突に空中を飛行する5つの影の1つがアンナに近づき、面長の顔で彼女を見やった。
今にもその手に握る金で装飾された剣で面長を斬りたくなる不気味さがあった。それに彼女の性格から気持ちを抑えることができず、表情にファンへの嫌悪感が出ていた。
そして不意に剣を下から上へ高速で振り上げると、空気が焼けるようにゆがみ、その斬撃が空気を伝い、巨木の群れへ飛ぶとその中の巨大な幹を1つ、貫通した。
幹は鋭い刃物で切られたそのままの姿でゆっくりと巨木からずれ落ち、轟音と共に少ない面積の地面へと落下していった。
青々とした葉が空中に舞い上がると、不意にその樹木の漏れから黒い影のいちぐんが飛び出し、そのまま彼らの反対方向へ飛行して逃げていく。3つの影と1人は抱えられている様子に見える。
「あれじゃないですか!」
とロべスは言うとすぐに右手に光子を集め始めた。
「やめろ。狩りは狙撃じゃつまらない。ナイフで獲物を引き裂くのが一番面白いんだ」
そういいガロが一番先に4人を追いかける。
「えー、面倒じゃないですかぁ」
といやいやながらもロべスがあとを追った。
残ったファン、アンナ、エリザベスは、その場に浮遊していた。
「まだ迷いがあるのか。まぁ君の考え1つで彼の運命は決まるのだがね」
ファンはうつむくエリザベスへ向けて、鋭く言う。
「迷いなどない。目的は1つだ」
というとエリザベスも飛行して行った。
「こっちはこっちで事情があるから、あんたはあっちに行って」
アンナは剣を一振りすると、ゆっくり飛行していく。その先の運命の対峙があることを分っていながら。
ファンはにたりと笑うと、エリザベスの後を追うように飛行していくのだった。
アンナは1人巨木の森へと入る。日の光を遮るほどに成長した巨木の群れは、そこに街があるような、不思議な錯覚におちいるほど、巨大な木々ばかりが並んでいる。
彼女が進むとちらほらと粘土質のドーム型の家が幹にひっついているのが見えてくる。おそらくはここが集落の端なのだろう。
そのままゆっくりと飛行していくと、建物がどんどん増えていき、彼女が感じる前世の姉妹の気配が大きくなっていく。
そしてある1つの建物が彼女の眼に入り、ゆっくりとその建物に近づいて行き、中へ入るとピンク色の皮膚に渦巻き模様が入った1人の人物が、腹部の氷を抑えて胸で何度も荒い呼吸をしていた。
「姉上、ようやくゆっくり話ができますね」
そういうとアンナはニコリと狂気に微笑むのだった。
ENDLESS MYTH第5話ー3へ続く
第5話ー2