垂る血~When the world changes~

 皆さんこんにちは。清音時エヴァントレスと申します。本当は西園寺エヴァントレスのほうがよかったのですが、変換ミスでこのような名前になっています。今思うとこのペンネームのほうがよかったのかなぁと思いながら小説を書くことが多くなってきています。
 この作品は、どっちかというとミッションインポッシブル風の作品となっております。グロテスクな要素もほとんどない+迫力のある描写が続くという結構なかなかの力作です。かなり厳しい状況がずっと続きますので、ぜひ楽しんでいただければと思います。本作はある男が大阪を中心に暴力団の密輸、抗争、計画などを阻止するために暴れまわるという、けっこうシュール(?)な作品です。この男は銃撃戦、殴り合い、カーチェイス、パルクールなどを繰り返しづつけるので言ってしまえば何でもありです。その反面書いてる側も結構疲れます。別に飾る気もございませんが、断言します。面白いです。


 この作品の狙いは、ぜひ読んで読み取っていただいてほしいのですが、その抽象的な部分、また執筆にあたっての考えをはなしていきたいと存じます。
 プロフィールにもある通り、私は人間の真理を最大限まで引き出してその形を見つめ、言葉として表現する。この操作によって人間の真理を感じ取り、自分の内面を変えて豊かにするという少々哲学的にもなりえる小説を目指しています。スプラッター要素のある作品とか、アクション小説にその要素を絡めつけて画期的な小説を構成するという、その第一作が本作です。
 その味をぜひ楽しんでいただければと存じます。




(ここだけの話俺は小学生です。よろしくです)

prologue:失態

 月の光とネオン、そして街灯が降り注ぐ大阪府の難波。どちらかというと少し東、上本町から鶴橋の当たり。近鉄線の線路沿いを走る府道702号線を超えてまだ少し明るい空へ向かっていく。
 万寺と書いて”まんじ”とよむ実にいい名前の卍(寺)あたりでだ。そこはもうかなり人気(ひとけ)が少なく、犯罪には好条件の重なった要注意地区。この暑い夏の日に、犯罪が起きないわけがない。
 そこへ目を付けた暴力団監視対策グループESENAは、よくやるもんだと言わんばかりであった。
 この会社は非国設会社つまり、我ら府民が独自で結成して活動を続けているグループである。この会社の目的はただ一つ、もちろん暴力団の行う、密輸、抗争 etc… を監視して食い止めることである。警察とは一切の関与がなく、感謝状がもらえるわけでもない。
 前回は街中で任務が行われたために騒ぎが大きくなった。その時は抗争だったので新たにもう一群が割り込んできたわけである。そりゃぁその騒動はすごいもので、ニュースにも出たぐらいだ。そのせいで結局警察はこちらを監視されることになってしまった。——どうですか?暴力団→ESENA→警察ですよ。
 自己紹介が遅れた、海保実です。姓は海保名は実。職業は……。いつもは会社員と言っている。決して海上保安庁ではない。まったく母親はなんであんな名前のやつと結婚したんだか…。
 今は先ほど言ったように鶴橋の当たりにいる。ここは雑居ビル群、寺群。と言ってくのが最適だろう。なぜ現在ここにいるのか、この質問の答えはズバリ、現在は強力な毒薬テトロドトキシンを密輸するということが無線ハックで分かったと聞いて、本部から伝えられて、我らF隊が配備されたというところ。
 ついでに言っておくがESANAはいくつかの隊に分かれて配備されていて、現在では犯行現場の状態の管理をするA隊と、実際に任務を行う(犯行を止めさせる、追跡、身柄の確保など)BCDEF隊に分かれていて最も優れた隊がFで、あとはE→D→……の順番。そして事務管理局がN隊。X隊は事務。(なんで隊と呼ぶのか疑問である。また、こいつらの職務はおもに犯行現場の整理、あとはオフィスワーカーに変身するだけ)Z隊はまぁ、日本でいう天皇陛下みたいな役割。そしてあとは本部、事務護衛部、爆発物処理班、あといろいろ。こんな感じでISENAは成り立っている。
 今回無線ハックをして犯行を確認できたが、無線ハックをできるやつらはだいたい警察とか消防とかに興味を持って聞いて、楽しむ(?)ことによって趣味を確立させてるやつらが多い。公開しなければ別に違反ではない。だからやる人は多い。何より簡単にできるというのがあるからだ。それぐらいのことは暴力団でも知っているはずなのに、ハックされる無線を使うということはかなりアフォなのかブァーカなのか、何かを狙っているのか。どれかである。だから俺は警戒している。
 たった今無線が入った。(むろんこの無線はハックされない)怪しき人物を味原本町で確認。とのこと。今回は闇商人から暴力団にテトロドトキシンを引き渡しする最も多いケース。——ただし自分ののなかで。
 この件の欠点はやはり本人かどうかを確認せねばならない。暴力団も賢いから囮を用意したり、複数の個所で同時に引き渡ししたり、監視したりしているわけである。武器も持って当然だし、引き渡しする双者の間で争いが勃発!なんてことも多くある。だから慎重にせねばならない。もし誤って無関係の人物を殺傷してしまえば、善意しかなかったのにオセロのように真っ黒な犯罪者となってしまう。そんなことがあってはならない。これは我らだけでもなく、警察、入国管理者、その他いろいろ――も同様である。
 でも規模的に警察はその件に当たることもそれなりに多い。その件ではなくても、無実の人間を殺傷してしまったことはあるだろう。でも俺らだけ、許されない。これって、どうよ?いや、お前らもやってるんだからお互い様だろ?ってなわけで俺らは無罪と。——ってわけにはいかない。実際、無実の人間が殺傷してしまうと罰されるのは職業問わず同じであって、警察だけ罰されないというのは違う。つまり何の職業でもそのような失態を犯してしまえばoutだ。そうじゃなかったら警察は警察じゃなくなる。わかるか?この意味。
 また無線が入った。目標dを確認とのこと。目標dっていうのはもちろんテトロドトキシン。
 されるわけないが、ハックされた時を考えてだ。また、近くで聞いている人もいるかもしれないから、というのが強い理由だ。いよいよ始まるということなのだから、いくらなれたといってもこれはやはり緊張する。このF隊はそれぞれの死角になるところに私服で配備されている。状況によっては陰に隠れたり、歩いたり走ったりチャリ乗ったりして一般人を装う。これ、チョー基本。だから仲のいい有山仁が角を曲がったところでスマホをいじっている。俺は曲がり角から数十m離れたところで同じところを往復している。緊張じゃない。歩いているように見せるのだ。今回はスーツ姿。仕事帰りのおっさんという設定だ。もちろん服装は自由とにかく何でも着て良い。着ないのはだめ。犯罪。
 俺らは銃は持てない。公認グループではないからだ。法律もなんもない。だがエアガンは持っている。え?ガキの遊び?エアガンぶっ放すぞコラ――と言われるのがオチ。なのだが、結構エアガンも強い。いいやつであればかなり痛いし目にあてられれば失明確定。いや、マジでいたい。商業高校時代にやられたことがあるが、あれを何発もあてられればそのうち失神する。と、真剣に思った。そのうち死ぬと。これは冗談ではない。少し改良すれば殺傷も簡単といってっも過言ではない。ほかにはナイフ。これは訴えられても理由があるから大丈夫だ。って、訴える暴力団なんていないか。
 「万寺の交差点へ移動、南へ移動している」無線が入ると俺はすぐ反対方向に体を向けた。一つ隣の道路から行く。そして手前の曲がり角で待機。
「有山」小声で名を呼ぶ。もちろん走って有山のほうへ行ってからである。「西に一つ隣の道路。俺は東から行く。両脇から挟み込む」そう言って俺は走り出す。「本部、何人?服装は?」そう聞く。もちろんだがお互いで無線のやり取りは可能だ。だが必ず回数を減らして、重要なことだけを聞く。という条件だ。「目標は三人。真ん中の者が目標dを持っている服装は全員黒。スーツ姿だサングラスをかけている。全員だ」なるほど。スーツにサングラス人相悪いな。わかりやすいっての。どうやらほかの場所では取引はなかったらしい。エアガンは右の胸ポケット。ナイフは腰内。OK。ここらへんでいいか。ちょうど正面に道路を挟んで有山がいる。暴力団三人が歩いてきたところを俺が右から、有山が左から挟み込んで回収する。全員身を引き取り、そのまま警察にひきわたし、と。本部からは俺らの位置をgpsを通していつでも確認できる。だから相互で情報を交換し合って目標の位置を把握し、死角で待っているやつに隊民が来たら突撃指令を出すという感じだ。目標の死角に隠れていれば、自分たちからの死角に目標にいることになるため、目標がどこまで近づているのか把握できないからである。
 「突撃指令、あと十五メーター、十、五……」近い位置からカウントが始まった。向かいの有山がいるかもう一度確認する。上等だ。
 「三……突撃っ!」目標が見えた。それと同時に右端の奴に背中にけりを入れて顔面をいち、に、さんと三発殴る。アクション映画でよくあるどすっ、どごっといった音が鳴る。うぅ……とうめき声をあげるが、容赦なく腹にぶち込む。腹を殴られたら相当痛くそれだけでもなくその痛みは相当続くため、かなり困る。内臓が痛がってるのか知らないが、呼吸が急にできなくなりほぼ動けなくなる。
 もちろんその敵は倒れこみ、鼻は曲がり、血が流れる。きったねぇと思いつつ上を見上げると目標dを持った人物らしきものと目が合った。
 それも結構長い時間、相手は茫然としている。しかしそのサングラスの奥にある目は、まるでこの事態を予想していたかのように笑っているような気がした。まさか、と思い我に返ったとたん顔面を殴られた。舌打ちをしつつ——と言いうが舌打ちにはなっていたかどうかは分らないが——蹴りをいれる。
 胸蔵をつかまれて二発ぐらい殴られると意識が朦朧としたが、首を振って俺の胸蔵様をつかむこいつの右腕をつかんで、もう片方の手で襟首をつかむ。そして肩を支点にして一気に持ちあげくるんと一回転させる。そう、背負い投げ。しかしこいつの体は重くてこちらもよろめき、お互い同時に立ち上がる。まったく固いやつ。さっさと倒れろっての。目標dはおそらくバッグの中だろうが、渡そうとはしない。しょうがなく足元にあった花瓶をこいつの頭にぶつけて、土で視界を遮る。アッパーをしようと思ったらこいつの手がこちらへ伸びてきて、ネクタイをがしっとつかんだ。そのまま引っ張られ、ネクタイで首を縛り上げる。ネクタイのぎゅぎゅぎゅという音がとても不快だ。やばい。とっさにいつのサングラスをつかみ上げてこめかみにぶつける。さぞ痛かったろうに、手の力が緩んだ。その瞬間にもう一回背負い投げをして次は逆にこいつのネクタイを締め上げて顔面を一発渾身の力を込めてぶん殴る。アッパーであごを殴り上げ(?)てやる。それでもネクタイに込める力は変わらない。するとこの野郎、両足でけり始めて俺の腹、股間を蹴られる。いってぇ。すると後ろから羽交い絞めされ誰かと思って後ろを向こうと思ったとたんに顔面を殴られる。鼻血を流している、まさか、さっき俺が秒で倒したやつか…。
 「死ねぇっ!」叫んで右足をあげて回転する。二人とも吹っ飛ばされてまた立ち上がって襲ってきた。鼻血のやつの腹にけりを入れ、前に向き直って相手のパンチをよけてジャンプ、そして頭の頂点から殴り下ろす。こいつはやっとよろめいて倒れた。また後ろに向き直る。顔面を殴られて後ろに倒れこみ、顎を蹴られた。何とか立ち上がってネクタイ野郎をいとも簡単に持ちあげて鼻血のやつに投げる。そのまま倒れこんだ相手に飛び蹴りをしてK.O.ってなわけで任務完了。
 有山のほうに向き直ると、やばい。有山は拳、相手はナイフだ。もうすでに有山は何か所も切られていて、叫ぶこともできなかったようだ。後ろから手を首に回してぐっと後ろに引き倒す。そして顔面一発。「倒したか?」有山の声が聞こえる。俺は慌てて有山のほうへ駆け寄る。「刺されてはいない。切られただけらしいから大丈夫だ」声も元気は残っているので俺は安堵の溜息を吐く。
 無線を取り出して任務完了の報告をする。するとカチャリという音が鳴る。「伏せろっ」有山の声が聞こえた途端銃の音だと察した。ガウンッと音が響くと右腕に鉄の弾が当たったような感覚が襲う。その感覚は全身に広がってゆき、脳に達した途端それは”恐怖”の信号に変わった。撃たれた。そのまま倒れてしまう。
「ふふふ……馬鹿ども」上を見上げる。こいつか。こいつはしゃがみこんで俺の脳天に銃口を突き付ける。鉄の冷たさが冷や汗に変化した。「俺の名はゴード3と名乗っておく。お前らが頑張って倒した三人は俺の手下、我らの会社の取締役だ。お前らは俺らに翻弄されていたと気づいていたか?ハックされる無線なんて使うわけないだろう」あぁ確かにそうだ。それは疑わしかったが、任務は任務で与えられた使命は果たさなければならない。だからやった。それだけの話だ。それを俺たちが翻弄されたというのはどうなんだろうか。結局は翻弄されているのは本部のほうで、うろたえて指令を出したのではないか。「これは囮だ。といってもテトロドトキシンを持っていないわけではない。ちゃんとこのバッグの中に眠っている。こいつが目覚めたころにはお前は眠る」この続きは分る。永遠にな、だろう。そう思ってよけようとした途端に銃声が鳴る。もうだめだ。
 すると血をかぶる。こいつにしっかり脳天を撃たれたのだと思って目を閉じようとしたら。「海保ぉっ!」と声が聞こえる。ん?あれ?意識がある。動ける。生きてる!?そう思って立ち上がる。そうか。有山がこいつを打ったのか。この血の量はかすっただけだからなのか?「有山!なんで銃持ってる?」最初によぎった質問だ。「それはいい!逃げろ!」と叫ばれる。次は銃の連射音が響く。勘弁してくれ。曲がり角に隠れる。すると一人人間の影がよぎり、バックを取り上げて走り去ってゆく。やばい!テトロドトキシンをとられた!行こうと思うと激しく撃たれる。くそ、追いかけられない。すると有山が銃を撃つが一発も当たらない、そして有山は首を振る。——弾切れか…。無線をかける。「別の人物に目標dを奪われた!コード3と名乗る取り締まり社長とみられ、只今フルオートの銃で撃たれている!大至急要請を頼む!上本町駅へ向かってバイクで追跡する!」
やっちまった……大失態だ。

part1 追跡

 近鉄上本町駅に到着。バイクがあったのですぐにエンジンをかけて出発する。運転は自分がして、その後ろに有山が座る。あの後コード3は黒のCLクラスのベンツに乗って追跡する。加速はMAXにして精いっぱいハンドルを回しこむ。一気にスピードを上げて府道702号線に乗って爆走する。
 後や前にもコード3を追う車がらしき車が走る。なんだなんだと周りの者がこちらを見るが、そんなことは一切気にしていられない。すると何か重力が上にはたらいた様な感覚に襲われた直後、下を見る。宙に浮いている。後ろの車に飛ばされたのだ。
 地面に押し付けられ、ハンドルがぐらぐらと揺れたが持ち直す。次は右に大旋回したと思うと倒れこみ、くるんと一回転する。また後ろの車にぶつけられたのだ。右足に激痛が走り、車のフロントガラスに目をやると、コード3の仲間らしき人物が見えた。こいつか。するとこの車が加速しだした。「有山ぁ!避けろ!」そう叫ぶと有山はとっさに避ける。危機一髪何とかなった。その車の中にコード3がいたのを俺は見逃さなかった。車のセンターに乗っかり、キックでフロントガラスを割ろうとする。もちろんなかなか割れない。すると体がぐらっと傾いた。
 加速しだしたのだ。「くそったれ!」それでも加速を続ける。カーブに差し掛かった時キキィイイと音がしたと思うと車体が旋回した。ドリフトか。つまり、俺を振り落そうとしているのだ。バックミラーにつかまってバランスを保つ。周りを見ると悲鳴を上げるもの、茫然と見ているものがいた。まったくもうさぁ?
 そう思うのも束の間、スピードの高さに気付いて戦慄を覚え、とっさにフロントガラスをたたく。フロントガラスなんてなかなか割れないし、そう簡単に割れたらヤバイのは承知なのだが、いくら何でも強度が高すぎる。まぁ、CSクラスのベンツなんだから、その程度は普通なのかもしれない。もし防弾性があったりしたら、もうお手上げだ。だが手を上げられない。手を上げたら車から振り落とされるし、降参するという意味でも手を上げられない。——まったく面白くないんだが?マジで。
 エアガンを手に取り、運転手のほうへ銃口を向け、セーフティを解除する。本物の銃だと思った運転手は慌ててブレーキをかけてハンドルを思いっきり切り、それと同時に体を左方向に預ける——弾をよけようと必死なのか、テクニックなのか、両方なのか……。——そのままギアをローにして、アクセルを吹かす。——体に遠心力がかかる。そう、ドリフトである。
 別に運転手を撃とうとしたのではなく、エアガンでフロントガラスを割ろうとしただけなのになんでドリフトなんてかっこつけた技をするのか。でもあきらかに慌てていたから、それでもドリフトができるということはつまりこの運転手も相当な車の運転のプロなのだろう。——ご苦労さん、ほんとに。
 エアガンを放つ。もちろんフルオートなのでパシュッパシュッと撃つ。一発だけフロントガラスにはまり込んだ。すると運転手はこの銃がエアガンであることに気付き、冷酷とも言えないような笑みを浮かべてからさらにアクセルを踏み込んだ。そうなることも少々承知していた。そしてリズムを刻んでブレーキをかける。半秒ごとにだ。そうすると激しく前後に揺さぶられることになり、この態勢ではかなり危険な状態である。すると高さ制限2.5mのところに差し掛かる。まだ明かしていなかったが俺の身長は180cm越え。ベンツは車高が低い。するとその上をしゃがんでいる俺は、自分の頭がほかのところよりぐんと高いわけで、高さ制限2.5mのところに差し掛かれば頭ごっつんで間違いなく即死だろう。
 今の状況が把握できたところで俺はバックミラーに両手を預け、車のセンターに足をかけて一気に頭を下げる。勢いあまって顎をぶつけたが時速80㎞で頭をぶつけるよりは断然ましだ。
 通り過ぎたところでフロントガラスはだめだと思い、サイドガラスへ回る。左に座る運転手のところへだ。ここなら体勢が保てるのでハンマーを取り出して力いっぱいぶつける。
 「オルァ!」今の状況を客観的に見てみるとまず時速80㎞で走るベンツのセンターにまたがる身長180㎝弱の男がハンマーでサイドガラスを割っているといったところ。実にシュール。実にbeautiful!
 二発目でひびが入り、三発目で割れ、四発目で跡形もなく無残にすべて取れてしまった。運転手は茫然としてこちらを見る。——いや、よそ見しないで安全運転頼みますよ。そのまま窓から足を突っ込みその勢いで運転手を蹴る。五回ほど蹴り飛ばしたところで右手を入れてドアーのロックを解除してドアを開く。これをしようとして相当な時間がかかった。
 ドアを開くと同時にコード3が俺の腕をナイフで刺され、とんでもない激痛が走った。慌てて手を引いて手当たり次第にエアガンを打ち込む。やっぱり少しは当たったが全く効くわでもなく、苛立って叫ぶ。「てんめぇブチごろすぞゴルァッ!」もともと商業高校出身の身なので、なかなか効き目はあったらしく、コード3はナイフの手を引いた。そして後ろを見る。ヤバい。
 運転手は現在絶賛失神中で、要するにハンドルを切るものがいないわけだ。そして今カーブに差し掛かっているわけだ。激突するっ!ごり押しで運転手を放り投げて車に入り後部座席にいるコード3の攻撃をよけながらハンドルを回す。それもいきなりなものだから、コード3もドアに押し付けられる。そこからはしばらく直進だったので隣の助手席の椅子にあるレバーを引いてドンと背もたれを倒す。そのん真後ろにいるコード3はいきなり倒れてきた背もたれの下敷きになり、少しのあいだ身動きが取れなくなった。その間にコード3のナイフをひったくり、窓の外へ投げた。首をつかんでこちらに引き上げてナイフの先を突き付ける。ナイフの先が首にあたり、そこから一滴血があふれ出す。
「一回しか聞かない。カーブに差し掛かるまでに答えろ。お前の会社の本部をの場所を教えろ」
できるだけ低い声で怒鳴りつけるように言い、ナイフを持つ手に入れる力を加えた。
「そう簡単に言うと思うか?」
 コード3はさっき会った時と違ってひどくしゃがれた声だった。そして少し笑っている。どこからそんなに笑う余裕が生まれるのかわからない。まったくこいつにはつくづくイライラさせられる。
「ああ。もし言わなければこのまま俺だけ降りて車を激突させる。お前の事務所は秩序を乱してそのうち自滅するだろうさ」
「俺にそれだけ権力があると信じているのか?」
「そうじゃないとおまえのプライドが許さないのは分っている」
 そうか、と言いながら口の歪みが大きくなった。「だがな」そう言って俺の手に持つナイフを奪い、刃先を俺の腹に向ける。「もし言わなければ私を殺すなら、車から飛び降りたお前はその瞬間に部下に射殺されるだろうな。私を車から降ろしたとしても、銃撃を食らってガソリン漏れで爆発だ」
そうかもしれない。いや、そうだ。もう俺は最初から任務失敗だったんだ。ナイフを持つ手を俺の脇に挟み込ませて、胸蔵をつかむ。
「バッグをよこせ」
 本当の目的はコード3ではなくバッグの中にあるテトロドトキシンだ。どうやらそれにコード3は気づいていなかったらしい。するとおとなしくバックを渡した。
「すまないな」そう言って顔面を殴る。それも正面からストレートで。あっさりと気絶したコード3は後部座席の足元に寝かせておく。するとピーピーと電子音が鳴る。やばい、カーブに差し掛かっている。慌てて運転席に戻ろうとしたが間に合わず、ちょうど飲酒店のガラスに突っ込んだ。車の中で白い砂ぼこりのようなものが立ち上がる。その時頭は伏せたので大丈夫だったが左手を強打した。幸い利き腕じゃなかったので良かったが、頬や首やガラスで切ったのかひどく痛む。
 この店は閉まっていたから大丈夫だが、車はもうつかえない。もうじき俺を追うコード3の会社の手下が追い付いてくる。やばい。そう思って右足を引っこ抜こうとしたが駄目だ。挟まってしまって抜け出せない。「海保ぉ!」
 後ろから声が聞こえた。あの声は、有山だ。
「頼む!右足が挟まった!」わかったといって有山はそこに落ちていた鉄パイプのようなものを手に取り挟まっているところにさし込む。てこの原理で間を広くした状態で素早く右足を引き抜いた。
 「目標dは?」後ろにあるバッグを指さした。有山はそのバックを手に取り、俺と一緒にコード3を持ちあげて有山のバイクに有山が先頭で真ん中にコード3、最後尾に俺が乗る。——自己るのは勘弁してくれよ。三人乗りになるがしょうがない。3、最後尾に俺が乗る。——自己るのは勘弁してくれよ。三人乗りになるがしょうがない。
 「急げ」それだけ言って細い道からバイクが出発した。これでしばらくはばれないだろう。


「開けていいか?」そう思ったのは出発してから約二分後のことである。コード3の部下は、俺らを見失ったためにしばらく何もなかったので何か行動を起こそうと考えたのだ。だがバッグを俺らが確保したため逃げたことはすでに分かっているはずだ。だがら俺の姿がばれてはやばい。しかも三人乗りなんておかしいだろう?そう思って今俺らは本部から派遣される車に乗せられて事務所に帰る予定だった。
「ああ。いや、」肯定した瞬間にバッグを開けたので俺は有山のいや、という言葉は聞いていなかった。開けた瞬間バッグの中から『GPS作動、位置情報を確認』という音声が聞こえた。
「馬鹿」有山の声が聞こえる。やっちまった。とにかくこの時の一番優先される行動は、GPS取得装置の破壊である。しかし、このGPSはごく賞なのかどこにも見当たらない。おそらくICチップのようなものがバッグのどこかに組み込まれているのだろう。そうなってしまうともうお捨てるか燃やすしかない。かなり部下との距離ははなれていると思うが、一瞬でもだいたいの位置がわかってしまうとかなり迷惑だ。
「捨てるのはだめだ。何か移動するものに固定するか乗せるかしないと…」有山はそういう。
「だがテトロドトキシンはどうやって運ぶんだ?」
「お前の責任だろう?お前が考えろ」
舌打ちをしてから考える。移動するもの、固定できるもの……。あっ!
「あの宅急便のトラックの中に放り込む!」テトロドトキシンは、これか。箱の中に入っているものだろうが、これぐらいならそのまま持っていても差し支えなさそうだ。立ち上がってバイクのトランクを開ける。ただし有山が運転中だからかなり危険なのでその分ちゃんとやる。少しだけトランクと車体の間を開けて箱を入れる。(どっちかというと放り込む)
「目標dはOKだ。バックを後は……いける」時速90㎞で走るバイクから、動いていない路肩に止められているトラックに狙いを定める。
(落ち着けよ…)だんだん迫ってくる。有山はぎりぎりまで歩道側にバイクを激突しない程度に近づけて、おれは左手でバックをしっかりつかむ。さん、にー、いっ
 視界が真っ黒になる。顔にぱらぱらと何かが当たる感覚がある。そして視界が急に明るくなったので眩しさで目がくらみ、そして地面が揺れたかと思うと、生物的本能なのかバイクから飛ぶ。そして激しい風が響いたかと思うと、何かがとどろくような衝撃に襲われる。そして、轟音。
 やっとの思いで目を開いて立ち上がるとそこはもう火の海だった。左の建築物を見ると跡形もなく激しく損傷しいているのに気づいた。すると何かが抜けるような音がして魔の前に何かが飛んでいく。かっと顔が熱くなると、再び轟音。
「RPGだっ!避けろっ!」
そうだ。そうだ。
なるほど。

そのまま走り出して、バイクに乗ろうと思うとまた顔が熱くなり、腹に何か圧迫がかかったと思うと体にかかる重力が反転した。爆風だ。そのまま地面にたたきつけられて少し上を見ると有山の姿があった。頭から確認する。大丈夫だ。足の先まで見てみると、なんとも無いようで彼の顔を確認する。
目があいている。
「有山、逃げるぞ」そう言って二人で立ち上がると銃声が聞こえた。ぴゅんぴゅんと音がするので、こちらに撃ってきているのは確かだ。「走れっ!」有山が走り出したのを見て俺も後から続いた。いや、まて。テトロドトキシンを回収しないと。後ろを向いて走り出し、何か有山の声が聞こえたと思うとバイクが爆発した。それと有山の危ないという叫び声が聞こえたのは同時だった。
再び腹がが圧迫されて次は高く飛んだのだろうか、何か浮遊感を感じたと思うと強く背中をたたきつけられた。
「うぅ…」地面の感じがアスファルトと違うのは確かだ。地面を見るとコンクリート、カビが生えている。周りを見渡すと、ここはビルの上だということに気付いた。ここは二階だから、爆風でここまで来るのも考えられないこともない。もう一度足元を見ると、血。俺の血だということに気付いてから、急に全身が痛んだ。顔を触るとかなりの血が付いた。コンクリートとの激しい摩擦によってだろう。するとまた銃声が聞こえて、慌ててしゃがむ。下から俺のほうを打っているのだからしゃがめば死角に入る。そして後ろを振り向いて、助走をつけ、隣のビルへ飛び移る。
そして隣の排水管を伝って下まで降りる。ビルとビルの間の狭い路地裏を縫うように走り、部下らをまいたたころで本部と連絡を取る。
「銃の配給を頼む」
「そんなものこの社が持っていると思っているのか?」
「有山が持っていただろう?」
「……本部へ戻れ。そこは危険だ」
了解とだけ言い捨て、無線を切った。さぁ戻ろう。もうここは嫌だ。有山も自分で帰ってくるだろう。

part2 計画・好機

「お疲れ」
ESENA本事務所へ帰宅した海保実は、さっそく本部長から挨拶をいただいた。なんだか気持ち悪い笑みを浮かべていて、もともとおっさん感の強い本部長はさらにおっさん感を増していたようにも見える。
「ざす」べつに話したくもなかったから、適当に頭を下げて寮へ向かう。
このESENA本事務所は大阪府梅田から北東に進んで大川(旧淀川)を超えて都島区に入り、都島本通二丁目の商店街を抜けて縫うように進んでたどり着くところだ。
この事務所は五階まであって、一階には受付、社員ゲートがある。二階は事務長室、本部長室、取締役室がある。要するに将軍のおひざ元。このビルはセキュリティ上、社員ゲートを通ってからエレベーターは一回から二階へは上がれないことになっている。なのでいったん階段で二階へあがり、そこから社員確認を行って受付で社員カードを受け取り、そこからエレベーターで三階の寮へ向かうということだ。もし理由があって一階から二階へエレベーターでしか上がれないときは、一階で社員カードを受け取ることとなっている。その前の段階に負傷をしていた場合は隣の建物の医務室で治療を受けてから地下通路で本事務所の一階へ行くようになっている。
 各階には緊急用のスイッチが配備され、外側のカバーを回してボタンを押すことによってできる。完全無音なのでばれることも少ないと考えられているし、ボタンを押しても何の警報もならない。ただし四階と地下一階のセキュリティ室にはちゃんといきわたる。ちゃんと防犯カメラもあるのでそれ以前の段階で発覚するとは思う。
 実際に警報がいきわたった場合、そのうち本部長にも伝わり、武器庫が解放される。だが、武器庫ではなくても各部屋のいたるところに簡易的な武器を収納しているところはある。今までは全くそのような事態は起きていないので、これらの武器を使われたこともないし、武器庫も点検が行われない限り開けられることはない。
「待て」
さっさと寝ようと寮へ続くエレベーターに乗ろうとして社員カードを取り出して歩き出そうとする俺を後ろから呼び止めたのは本部長だった。
「はい?なんでスか?」苛立ちを隠そうとして軽めの口調で返事をしたが、でもやっぱり怒りがこもっていた。
「いい知らせがある。正午十二時に集会だ。よくやったからさっさと寝ろ。何をしている」
「りょ、了解……」
「お休み」
 何をしている?呼び止めたのは本部長じゃないか。呼び止めておいてなんだよそれは。おそらくいい知らせなんかないんだろうと察せるのも誰でもそうだろう。
 そして何時間寝れるのかと思い時計に目をやる。時刻は五時半か……。何時間任務をしていたのだろうかと考えてみたらどっと疲れが襲った。しばらくF隊は配備されないだろうから、十二時までずっと寝てやる。そう決意して社員カードを手に取ってエレベーターの電子版にかざす。ピッと軽い陽気な
電子音が鳴った後エレベーターが下りてくるの音が聞こえてドアが開く。よく言うが、この事務所はホテルとよく似ている。
 そしてエレベーターに乗り込んで三階のボタンを押す。さっき言い忘れたが、五階は多目的ルームと、集合室、会議室がある。そしてその上は屋上だ。武器庫は地下一階にある。
 ふわぁと大きな欠伸をする。チーンと軽快な電子音が鳴ってからドアが開き、外へ出る。通路にはじゅうたんが敷き詰められ、もうほんとにホテル。廊下にはジャズの音楽が流れている。すると警報音が鳴る。
『E隊出場 場所は一階号令室にて伝達』
F隊ではなくてよかった……。そう思ったとたんE隊の寮のドアが開き、その者どもが走ってエレベーターへ向かう。顔にばんそうこうやら張っているため、E隊の者どもはその傷跡を貢献のしるしと思い、「海保さんさすがっす」「お疲れっす」と声をかけられる。正午までには帰ってこいよとだけ言い、そのまま自分たちの隊の寮へ向かう。俺たちの隊は8人。寮の部屋には二段ベッドが壁ぞいに四つ配備されていてトイレは奥の非常階段手前のところにある。
 社員カードをドアノブにかざしてピッと音を立ててから鍵が開いて部屋に入る。すると部屋からは奨励の言葉が聞こえてくる。廊下を歩いてドアを開けるとそこからは拍手と指笛の音。
「海保おつでーす!」
「やりましたね」
べつに今回何もやってないと思うのだが。そうおもいつつ
「あざす」
とだけ言う。いや、でもマジでありがとうよ。
そこにもちゃんと有山がいた。横を向いて壁際にある機器に社員カードを差し込むしゃ。この機械に社員カードを差し入れるとどの社員が帰宅しているかがわかる。差し込んだ瞬間に信号が四回か地下一階の指令室、セキュリティ室に届き、誰が返ってきているかが把握できるようになるのだ。
そこでやっと
「俺、何かすごいことをしたか?」
「ああ。有山との協力でな」
有山はにっこりと笑う。なんだよさっさと言ってくれ。
「目標d、お前のおかげで有山が回収したんだよ」
「え?」そう言えばすっかり忘れていた。
確かあの時……えーっと。
バイクを爆発させられたのではなかったか?そうだ。じゃぁその時に燃え尽きるか蒸発するのではないのだろうか。もしそうなったら回収ともいわないし、任務としては成功にならない。もし任務が成功だったとしても、そんなに喜ぶことなのだろうか?
「おかげで、公式グループとして国に認められたんだよ」
有山はそういう。
「はいっっ!?」
ちょっと待て。それだけの任務で国に認められるわけがなかろう。なにがそんなにすごいのだろうか?
「なんでだよ?」
「実はな、それがあの暴力団に関係があるんだ」
「暴力団に……関係………が?」
 復唱して確かめてみるが、つまりその暴力団の任務を阻止してくれたら国には何か利益があったということなのだろうか。いや、でもそれでも理由にはならない。
「あいつら、暴力団ではないんだ」
それを言ったのは有山ではなく、佐藤忠彦。同じ商業高校の出身でこいつの勧めでここへ来た、俺の人生を変えた男ともいえるやつだ。
「国際指名手配犯の結成グループとでもいえる。全員国際指名手配犯だ。そいつらの中心人物がコード3で、海保が殴り飛ばした男二人の身柄も確保できたかららしい」
なるほど。だから本部長もあんなに笑ってたのか。
「……やったな」
そう言って俺は佐藤の頭に拳をこつんとぶつける。それだけ。なんだか眠くなってきたのでもうここら辺にして、とっとと寝よう。
「ほにゃ、お休み」
「おやすー」
「で、わざわざ待って起きてくれててありがとな」
ちゃんと感謝の言葉も伝える。俺ってホントにやさしい。いつもそう自分で思うのだが、本当に優しいかと言われればそうではない。少なくても自分では、だ。
「いや、勝利の喜びを分かち合ってただけなんだけどな」
「あ、そう」
もういい。寝る。
「お休み」

垂る血~When the world changes~

完結次第書きます。

垂る血~When the world changes~

  • 小説
  • 短編
  • アクション
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-19

Copyrighted
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  1. prologue:失態
  2. part1 追跡
  3. part2 計画・好機