超能力学校と転校生
ある超能力者のための学校に、特別な転校生が来た、名前はネア、彼はクラスでもてはやされたし、実際人気に相応の実力や才能はあった。おちゃらけたキャラクター、親近感をおぼえるような、特徴的なドレッドヘアー、ゆるい表情。皆すぐに彼と打ち付ける事ができた。それはその超能力者の学校という特別な状況にとって、特別に珍しいことだった。だからこそ、それをひがむ人間も少しはいた、その一人が、彼、同じクラスのユトだ。彼は平凡な見た目、どこにでもいそうな平均的な性格と表情をみせている、強いているならば、少し運動ができるくらいで、めつきがきついくらい。それが関係してか、転校生に嫉妬をしていた。にぎやかになる彼の教室、一人のもてはやされる異様な状況。彼にとっての特別な嫉妬。その理由は、彼の幼馴染の少さえ外の世界から後からやって来た、素性を全て明らかにしていない彼にたいして心をひらいているからだった、閉鎖的で排他的な彼等が、なぜ彼をアイドル扱いするか理解に苦しんだ。それに、いつもはプライドの高く人間嫌いのほかの超能力者たちが、彼はもともと謙虚で、素晴らしい超能力者だという噂がたっていて、その前評判のせいか、自分たちのことを謙遜しすぎだと思ってさえいた。そもそもほかの生徒も不思議に思っていたことだが、基本的に超能力者学校は、その組織の性質から閉ざされた機密の多い組織であり、転校生は受け入れないはずなのだ、それを確かめるには、彼が斜に構えるしかない、と彼はかんがえていたのだった。
彼のにらんだ通り。二週間、三週間がたっても相手の転校生はその能力の片りんさえもあらわしはしなかった、念力によって挑んだものは、
「念力返し」
といって彼のおどけた踊りによって笑ってしまって念力を使う気力を失い、
瞬間移動によって挑んだ人は
「どこからでもかかってこい」
といってさかさまで玉乗りをする彼にあっけにとられて目を丸くしていた。
二人の中の悪さは、クラス中の評判になり、それにこまったクラス委員長が担任に相談し、担任が職員会議で、ついには、全ての超能力者の統率者である、学校長の、ジョセフの耳にその噂はとどいた。
「それは本当か、二人の成績にひびいてはならん、お前は、担任としてその問題を解決しろ、でなければ減給だ」
担任は女性で、新任教師だった。落ち込んでいたのであまりに不憫に思ったクラスメイトたちは、皆で二人の仲を取り持とうと考えた、四六時中、二人に気をつかって間にはいって喧嘩をなだめたり、二人に同じ話題をふったりしたのだった、そのかいあってか、2か月たったころになると外から見てみるとそれほど、仲が悪いようには思えない程度に二人の関係は、ぎくしゃくしながらも落ち着いてきたようだった。ある時無理やりに、彼等を教室に二人きりにしたところ、二人が思わぬやりとりをしていた。
「おまえいっつもガンくれてるじゃねえか」
「お前こそ生意気すぎるんだよ」
この超能力者の学校では全校生徒に対し、健全なありとあらゆる礼儀と作法と、丁寧な言葉使いを求めるような校風がある、つまり、そんな汚い言葉使いの会話は、普段だれも行わないのだ。
「俺が人気なのがそんなに不満なのか」
「お前の超能力がわからないのが不満だ」
彼、新しき転校生に不満をもつユトの想いとは、彼が来てからのクラスの盛り上がりが異常なのだという、そしてそれは彼の講じた何らかの手立て、例えば、超能力などの……彼のもつ超能力や彼の巡らした謀略が、普段、重苦しい雰囲気の、闇の深い学園である超能力学園のクラスメイトたちを服従させているのではないか、と考えていたのだ。
「人聞きの悪い事をいうな」
「ならお前の超能力を教えてくれ、教師ですら、そのことをタブーのように扱っている、お前はいったい何者なんだ」
「ない」
「は……」
これには、教室の外で、前と後ろの入口の扉を少しあけてのぞき込むようにして中をうかがっていたクラスメイトたちも度肝をぬかれた。超能力を持たないのなら、なぜこの学校への入学を許されたのか。
「ならばなぜ、この学校へきた」
「しいていうならば……」
息をのむ生徒たち、前の扉にいた一人のせいとの咽が唾を呑み込む音をたてて、同性の男子生徒が彼を注意した。
「能力がないなどありえない。この学校の生徒は、みな世を忍んで生きて来た人間だ、特別な人間なんだ」
「俺の能力は……求められた超能力を存在するかのように見せる力だ」
「はあ?」
「俺は何百年も前から、大道芸一筋の家系、パントマイムの能力によってどんな超能力を使ったふりもできる」
「それだけでここに入ることが許されるわけがないだろう、お前は、どんな苦しい生活を送ってきたのだ」
すると、ドレッドヘアの転校生は笑った。
「俺がここへ入学できたのは、サーカス団を組織する。父の財力と信用があったからだ」
「ふ……ふざけんなあああ」
ユトはすぐさま彼に襲い掛かり、扉の向うで黙ってみていた生徒たちが全員でてきて、ユトを押さえつけた、そして、ドレッドヘアの転校生、ネアをかばったのはユトの幼馴染の少女、リアだった。
「なんだ……みてたのかよ」
きまりが悪そうに、ユトがつぶやくと、みんなは白けたように、二人の様子をみていた。丁度そのころ、チャイムがなって下校時刻をしらせていた。その日の帰り道。
「いいじゃない。皆本当は退屈してたのよ、きまりきった校風や、自分の超能力がなぜ目覚めたかや、超能力とも向き合い方、きまりきった教えばっかりで、少しばかりおかしな転校生がきても、皆の気が楽になるなら、それもいいでしょ」
「ああ」
「なんで嫉妬しているの?」
「嫉妬というか、それなら、別に彼がこなくても、自分たちでかわればよかった事だ」
「ぷっ」
幼馴染のリアに笑われると、さすがにユトも根負けしたようで、顔が真っ赤になった、どうやら、リアにはすべて見透かされていたようだった、彼女もまた、少し変わった見た目をしている、左右の目の色が違う、きれいな少女だった。やがてユトも学生の一人として、彼の、転校生の魅力に気がつき始めた、何が原因でクラスや校風が変わったとしても、これまでより少し楽な生活ができればいい、そう考えたのかもしれない、きっと外から来た人間にしか変えられない事もある、それが嫉妬か、あるいは憧れか、きっとわからないだろうし、彼はわかるつもりがないのかもしれない。たしかにこれまでよりはましだったし、それからは、やっぱり転校生とユトとの仲はギクシャクしていて、なんでもかんでも張り合っていて、むしろそれが回りからみておもしろおかしく、彼等のクラスや学校の名物となっていった。
超能力学校と転校生