雨上がりのカタツムリ

雨上がりのカタツムリ

幻聴の主は。カタツムリの正体は。

私はここ何年位か幻聴に悩まされている。
人の声が聞こえるきっかけになったはのは30歳を過ぎてからだった。

感が鋭いと言われたりもした。
高校の頃に不思議な体験をした。

父親が病気で他界しているが亡くなる時に虫の知らせになる出来事があった。
学校の朝の礼拝で教師に呼ばれた。

丁度呼ばれる前の体育館に集まる時に、時計を覗き時間を確認した途端に胸がザワザワする様な違和感があった。
それで教師達が慌てて私の名前を呼んで父親の入院していた先の病院に私を車に乗せて送ってくれた。

部屋に入ってみると父親はベットに寝ていた。
私が呼ぶと気付いたらしく目を細めて笑った。

父親は祖母に会い涙を流しやはり笑った。そのまま眠るように息を引き取った、、

後からそう…あの時の朝の礼拝の時の出来事が虫の知らせだった。

その後高校を卒業して社会に出たが仕事は中々定職出来ずに30代を過ぎてしまった。

その最初に書いた幻聴に悩まされているのを除けば典型的な人の筈が、幻聴の声の主からは異常と呼ばれる身に担って私は独身で現在はOLをしている。

やっと5年、早5年が経ち年月は少しずつ過ぎて行く。
無駄な時間を過ごした分、お金に換算すると幾らになるのか。
だからと言ってお金が欲しい訳でも無いのだが。

私はよくあの高校生の頃を思い出す。

男女共学で気になる男子に話しかける事も無かったが偶々隣町に住むUだけには話が出来た。
Uは女の子っぽいところがあった。
女子ではKと仲が良かった。Kは同じ町に住んでいた。自分より少しだけ背が高くて口角がいつも上向きなチャーミングな女子だった。

クラスメイトのKとUと3人でよくファーストフード店で夕方になるまで色んな話をした。
Uとは卒業後会ってはいなかった。

憧れていた教師が居た。数学の先生だった。
女子ソフトボール部の顧問をしていたがよく生徒達とグラウンドで一緒に真っ黒に日焼けしていたなぁ。
あの先生が最近風の便りでお亡くなりになったと聞いた。

雨上がりの朝、学校に行こうと家の花壇に目をやった紫陽花の葉の上に小さいカタツムリが居た。
父親がまだ入院して居た頃。

今朝私は起きて又窓ガラスに止まって居るカタツムリを見て居た。

幻聴は今朝から寝る迄ずっと聴こえる。
終いには会話になって居る。

それを友達のKに話すと絶対話を返しては駄目だ、と言って居た…。
毎日喧嘩腰になる相手だから困る。

仕事は転職した後は順調だ。
ただ母親が早く結婚相手を家に連れて来いと煩いのが嫌だ。

今日はKと久しぶりに夕食を食べる約束をしている。

今日も仕事は丁寧に出来ている。
このまま無事に終わりにしてと思う。

仕事が終わり自宅に電話して夕飯はKと一緒に食べると母親に言う。
私には2つ下の弟が居る。
母と弟と私の3人暮らしだ。

父親が他界した後、私は服屋の店員、弟は中卒で工場でアルバイトをしている。
ずっと自転車が足だったが、車の免許を取りに行きたいと最近話していた。

今日も又蒸し暑い。
私はカタツムリの事を考えて居た。昔からよく目がいくから。
父親が入院して居た時に見つけたのだった。

そしてKとの待ち合わせの場所に急ぐ。

Kは既に洋食屋の店内の一番奥の席に居た。
高校の頃のクラスメイトの親友だ。

私は早速Kに幻聴の事を話した。

「私はその相手に嫌われて居るみたいなの。Kはどう思う?」

「そうなんだ?!嫌われる事過去に何かしていた?!」

過去に私何かあったかなー?

全く記憶にないのだ。

幻聴と会話して居る人がこの世の中に探しても私くらいだ。
祈祷師とかと同じなのかなぁ…。それは又違うと思うが。

私は霊感は無い方だと思うが父親の話は親子なら虫の知らせならよくある出来事では無いだろうか。

それにしてもKは変わって居ないなぁ、昔から。

そうして私は帰りの電車に乗り、帰路に着く。

私は今夜も幻聴と話をするのだろうか。

それにしても何故私に話に来るのか、そこが気になる。

精神科の病院には2回だけ通っただけだった。
私は精神異常じゃない。

今夜も又聴こえるのか。

この日はお風呂に入り、テレビも付けないで、あおむけに横になり部屋の天井のシミを見つめていた。
その時だった。いつもの声がした。

「私は。U君の事が好きだった。」

「Uの事知ってるの?」

「私はずっとあなたより昔から、U君を知って居ます。幼稚園の頃から知って居た。ずっと見ていました。私はもう駄目です。私は小さい頃に治らない病気を患い、今に至っています。」

「それって。何故。私に話しかけてくるの?」

気が付いたら深夜1時過ぎだった。
私はいつの間にか寝てしまった。

話しかけられた内容は…。

「姉さん、その話、ほんとか?!
ずっと見て居た、Uさんを。
片想いだったと言うことか。」

弟は朝ご飯を食べながら、早口で応えた。

「おっと!こんな時間!じゃね、姉さん。行って来まーす。」

バイトに遅刻しそうな弟と同じ様に私も早く支度しなきゃ、、間に合わない、仕事!

私は慌てて腕時計をはめて、玄関のドアを開け早足で歩き出す。

結局その昨夜の幻聴の話によると、私はその声の主の話をずっと聴いていた。

その相手の女性はこう話をした。

「もう時間が来ました。いつもU君を見ているのが楽しかった。私の命はここまでです。U君には何もせずに私はここであなたに話しかけるのをやめにします。あなたなら安心出来る…。」

私は昨夜の彼女の話を電話でKに伝えた。
そしてUは隣町には住んで居なかったのをKから聞いた。
東京に住んでいるらしいと言う事。

仕事の帰り私は道に迷った。
路地裏の町並みを眺めながら歩いて居たら、小さな家の入り口の紫陽花にカタツムリが止まって居た。

雨上がりのカタツムリ

雨上がりのカタツムリ

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-16

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