8月15日


「エス・ク・チユ・ヌ・メーム・プリユ」、カルメン。それに、最初の発音はエス。(きっと本場風は、エシュ、って言うのかな、予想だけど) おれは フランス語なんて まるでわからないけど、ハンバートは フランス語も ロシア語も 英語も 恐らくその他もろもろ も 達者だった。ハンバートは ずっと前に 死んだけど。

キャベツの芯をずっと煮込んでいて、菜箸で ときどき 突きながら おれは 自分のことばかり を 考えていた。いつか 高い塔の螺旋階段を、身軽に登って行って、その頂上で おれは 制服の採寸を やってもらった。アレは もうずっと前で おれが たぶん 三歳とか、四歳、あぁ あの時の おれは 何を考えていたんだろう。ただ 塔の高いのを面白がって、階段の螺旋と 一緒に グルグル ずっと空まで飛んで行けそうな 軽快さで おれは 何も考えてはいなかった。甘いピンク色の ひらひらした 制服に 期待を膨らませて 何も、自分のことさえも、考えてはいなかった 。

ピンヒールを 履いている人は 男でも女でも すごく綺麗だ。もし おれが お金持ちになったら きっと 真っ赤なピンヒールを買って、足 だけを写すための、長方形の鏡を 壁に立て掛けて、ピンヒールを履いた おれの姿を ずっと見つめてやるさ。(でも お金持ちに なったら、たぶん 自分じゃなくて、 赤いピンヒールが死ぬほど似合う お方の 足を お金で拝借させて頂きたく 存じると 思うよ。美しさは 猟奇を 凌駕すると 、そんな了見は 了承されない うちは タダ、美しい人は おいくらで 御御足を お貸し下さる?)

8月15日

8月15日

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-15

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