一年の約束 03.家庭
アパートのベランダに出て一本タバコを取り出す。
東京はやっぱり都会だけあって地元とは違うな。夜中でもビルとかいろんなところの明かりがついてる。
仕事場の先輩とかにもよく飲みに連れて行かれる。ビールは正直好きじゃないんだけどな。
それに周りの影響でタバコを吸うようにもなってしまった。タバコを嫌っていた友香里が知ったらどうなるか、恐ろしいな。
その時、飼っている猫が足元までやってきた。一人暮らしのものさみしさに猫を飼ってみたものの、まぁなかなか可愛いもので。
ふと考える。友香里がまだいたら、俺と一緒に暮らせてたのかなぁって。
友香里を着替えさせ、必要な荷物を準備させ俺は友香里を俺の家に連れてきた。
お袋は事情は後で話すと言って、友香里を温かく迎えてくれた。
「本当にすみません...迷惑かけてしまって...」
「気にしないで!友香里ちゃんのためなら大丈夫よ!」
お袋のいいところだな。
「とりあえず俺の部屋に荷物置いたり好きなように使ってくれ」
「うん...」
俺は友香里を自分の部屋に案内し入らせた後、俺は一度部屋から出てお袋に事情を話した。
「そんなことがあったのね...」
「これ以上友香里を傷つかせたくないし。少しの間家にいさせて?」
「私は全然いいわよ?友香里ちゃんさえよければいつまでも」
「ありがとう...」
親父に関しては、多分大丈夫だろう。そういうことに関しては何も言わない人だから。
「友香里見てくる」
俺は自分の部屋へ向かった。
「友香里っ」
「康平君...」
「元気出せって。な?」
「うん...」
「あ、そうそう」
俺は鞄からあるものを取り出す。
「はい、これ」
「...え?」
「今日記念日だろ?だから記念日プレゼント」
俺は小さな袋に入ったネックレスを取り出して、友香里に渡す。
「いつもありがとうな。大好きだよ!」
「...康平君...うぅ...」
友香里がポロポロと泣き始めてしまった。
「ありがとう...ありがとう...」
俺は友香里の頭を撫でて、そのまま抱きしめようとした...時だった。
「友香里ちゃん泣いてるの!?どうしたの!?康平!!友香里ちゃんに何したの!?」
「......」
空気の読めないお袋が部屋に入ってきました。お袋は昔から空気が読めない人です。
それから三日が経ち、友香里にも少しずつだが笑うようになった。
それに俺も少しばかり安心していた。このまま続いてくれれば、そう思っていた。
しかし、そう簡単に続くわけがなかったんだ。
授業後、俺は友香里と一緒に俺の家へ帰っていた。
そして俺の家が見えるすぐそこまで来た時。急に友香里が止まった。
「どうした?」
友香里の視線の先には、俺の家の前で誰かが立っているのが見えた。服装はスーツ姿。後ろ姿だけだが、多分男だろう。
友香里は止まってから動こうとしない。
「なぁ、親父さんは俺の家知らないんだよな?」
友香里は頷く。そう、友香里の父親は俺の家を知らない。だから友香里を探し出すことはできないし、第一に俺と一緒にいることすら分かっていないはず。その前に、父親が俺と友香里が付き合っていることすら分かってるのか。
そんな状態で、あそこに立っているスーツ姿の男が友香里の父親だとしたら。何で分かった?
「とりあえずどっか行こう」
俺は友香里の右手を握って家からなるべく遠いところに連れて行くことにした。
一年の約束 03.家庭