第5話ー1
無限にあるオムニバースのどこかの宇宙で起こった遥か昔の前世の記憶から戻ったホウ・ゴウとアンナ。
1
「思い出しましたか姉上!」
アンナは剣をさらにホウ・ゴウの腹部へ背中から深く突き刺し、灰色の血液を出す。
苦悶に歪むニャコソソフ人のピンク色の皮膚と渦巻き模様のタトゥが、今にも意識を失いそうだ。
地上では突然、吐血したニノラの様子に驚くのは『繭の楯』の仲間たちばかりではない。その場に居合わせた『咎人の果実』も何事かとみている。
これを好機とばかりにもう1人のエリザベスの姿をしているバスケス・ドルッサは、ファン・ロッペンの腕を振り払い、彼の面長の顔を殴りつけると、腕を振り上げ中空に鋼鉄の鉄球を構築すると、アンナめがけて高速で飛ばす。
これを合図にイ・ヴェンスはニノラ・ペンダースを抱えて飛び、バスケスもイラート・ガハノフを抱えて飛ぶ。
鉄球が迫るのを見たアンナは剣を抜くと灰色の血液が空中に悲惨した。
意識が遠のく中、ホウ・ゴウは自らの腹部に手を当てて、傷口を凍らせると空中に氷のスロープを作りそこへ着地するなり、イ・ヴェンスの元へ氷を構築するとそのまま彼の大きな胸へ自らの肉体を放り投げた。
意図通りイ・ヴェンスは片腕でホウ・ゴウの身体を抱え、両腕に負傷者2人を担いだ。
するとそこへ巨大な光のビームが飛んだ。ロベス・ガビエデスが手のひらから放射した光の塊である。赤い巻き毛の彼はかわいい顔をして光を操り、それを浴びた者は容赦なく蒸発する。
それが5人に迫りくる。
すると気絶していたイラートが不意に腕を振るうと、頭上から凄まじい稲光が落下、光のビームを弾き飛ばしてしまう。
「に、げ、ろ」
吐血したニノラがそういうと『繭の楯』はその場から凄まじい勢いで飛翔した。
「ちょっと、僕はまだ戦いたいのに」
不満げにロべスが言うと、その背後では前世姉だった人物の灰色の血液がついた剣を振り払うアンナの姿があった。
地上では弟をかばったエリザベス・ガハノフを見てファン・ロッペンは殴られた顎を撫でつつ、
「面白いことになってきた」
とニヤリといた。
殺意という他者の理解できない妖気をまとうガロ・ペルジーノは、
「さっさと追うぞ!」
と荒っぽく言う。
だがファンは首を縦には振らなかった。
「狩人は獲物をじっくりと追い込むものだ」
これを狩りだとしょうして、ファンは嬉しそうに再びニヤリとするのだった。
赤色巨星が天をおおう世界を飛翔するイ・ヴェンス、エリザベスの姿からイラートの姿にいつの間にか変化しているバスケス、意識を取り戻した本当のイラートは、あてもなく飛行する。
「背中、痛むだろう」
イラートの顔で本物のイラートを見るバスケス。
「やめろよ、気持ち悪い。俺は大丈夫だって。それよりもあっちの2人だ」
2人のイラートの眼には吐血が口から糸を引くニノラと腹部を自らの能力で凍らせたが、剣で貫かれたホウ・ゴウの姿が映る。
「どこかで休ませよう」
と、言った矢先にビルほどもある巨木が5人の前に現れ、そこの幹にへばりつくように粘土で形成されたドーム型の建物がみえてきた。人類ではない別の知的種族が建造したと思われる建物ではあるが、隠れるにはちょうど良かった。
一行はドーム内部へ飛びこむと、ベッドらしきくぼみにホウ・ゴウを寝かせ、床に見たこともない生地の布があったので、それを枕代わりに丸めてニノラを横にした。
「エリザベスの電撃はそんなに強いのか?」
口についた血を布でふきつつ、イ・ヴェンスが弟に尋ねた。
「あの電撃は身体を焦がして痺れさせる程度だ。ここまでの重症にはならねぇよ」
イラートの姿をしたバスケスは布で凍ったホウ・ゴウの傷口を抑えながら、イラートの言葉を証明した。
「感電は外傷が主な負傷になるから見る限り、あの程度の電撃では内臓レベルまで外傷は与えられない。原因は違うところにあるはずだ」
するとニノラ自身が口を開いた。
「その通り、これは呪いだ」
そういうと身体を起こした。
身体を支えるイ・ヴェンスの気遣いを、手で払い、大丈夫だ、と言いたげにすると自ら口の血を拭う。
「グルズの呪いだよ」
その時、全員の脳裏にあのメシアを救出した際、グルズの頭を食いちぎった獣人化したニノラの姿が浮かんだ。
「黒い血の呪い」
ポツリとイ・ヴェンスが言う。
「だから長くはもたない。その前にメシアをなんとしても『オルト』の元へ。そして神々のところへ連れていく」
そういうと身体を貫かれたホウ・ゴウの貝殻のような嘴も動いた。
「なら、あたしをここへおいて救世主を救いに行って」
ここで本来ならば反対を意見として口に出すのが心ある人物の言動であるが、誰も何も口にしなかった。なぜなら彼女の言葉が正しいからである。負傷者にかまっている暇はなく、メシアの命が尽きるとき、それが物語の終わりなのだから。
ENDLESS MYTH第5話ー2へ続く
第5話ー1