早すぎた人

天才作家ロドーは、基本まぬけののろまだった。彼はなぜ天才だったか?私は知りたい、そして生きるヒントにしたいのだ。
コーヒーを飲んでいる間だけ、彼の才能は発揮された、そういう伝説がある、私が出会った時の年齢の彼は、まだコーヒーなど知らなかったはずだ。彼の作品は、執筆後10年後、決まってヒットする。なぜかは分からないが必ず、そうなるのだ。執筆直後は、だれも見向きもしないのに……
時代にはまらない設定、予言性。それはなんだろうか?たとえばSF小説のアイデアなどでいわれること……人間の想像できるものは実現するといわれていたりもする。しかし想像する人間はそれが現実か空想かつかみどころがない。ならば彼は何にすがりついたか、彼の予言性とは……それを探ればなぜあんな創作をしたかを理解できないだろうか。彼は、なぜ未来を予測できたのだろう?私は再び彼の生きた道筋をたどり、その秘密を探ることにきめた。

ヒント1
私は彼の故郷へとやってきた。のどかな田舎町、山に囲まれた風景。麓の村。綺麗な川。しかしめだった食べ物や名物はない。変わった動植物も存在しなかった。しかしかれの記念館にて、人だかりをみた。

ント2
親友サトいわく……親友は首都近く。都会の廃墟の中の捨てられた一軒家を借りてそこに住んでいた。蜘蛛の巣や野犬が平然とたむろしている廃墟の中を分け入って、彼の住居に取材に訪れた。そのあたりは彼以外にはほかに住民はいないらしい。友人は芸術家気質で画家を志していたのだったが、今年70、還暦まで教師をしていたらしい。当人にそのことを訪ねると。
「ああ、俺は表の気質と裏の気質が真逆なんだ、いつしかそれに気づいたよ、いや、若いころ、高校生自分にあいつに気づかされたのかもしれないな」
あいつとはいわゆる天才作家・ロドーのことだ。
「若いころはなあ。60になったら死ぬといっていたよ、いっつも白いシャツにスラックスだった。彼は潔癖症だったが、その興味は他人にむかなかった、自分さえ綺麗であればいい、というわけでもない。自分の手の中にあって、自分が手入れをできるものだけ綺麗にしよう、そう考える男だったよ。しかし彼は結局63まで生きていたよな。どうやら彼の家族に聞くと、彼は自殺ができなかったんだとよ。まあ俺も、家族も長生きしてくれって思ってたんだがな。」
私はよごれたコーヒーカップでカフェオレをごちそうになった、うまかった。帰り道は行にもましてきびしかった、苔の生えた岩肌でなんどか転びかけた。

ヒント3
彼は孤独を好んだ。彼の自伝や、記念館にあったメモ帳、日記帳には、読みづらい文字、奇妙な絵ばかりが描かれていた。判読すらむつかしいその品々から彼は自分の未来を予測したのだろうか。
いいや、私はしっている、かつてタイムワープでたった一人過去の世界に取り残された人間がいる事を。だが調査の結果、ロドーと彼とはまるで別人だという事がわかった、ならばなぜ、ロドーは未来を予測する事ができたのか。

アンサー
ついに私は確信へと近づいた、それは彼の66になる妹に取材を申し込んだときのことだ。彼女はいま、小さな宝石店の社長をしていた。名をメアリという忙しそうに話すひまもない、しかし仕事の合間に
私の取材に答えてくれた。
「おにいちゃんはね、よくいっていたのよ、人を助けなさいって、そうすれば未来がわかるって。でもあなた、なんでそんな事、まさか未来を予測できる人なんているわけないじゃない」
そうなのだ、いるわけがない。なぜなら、私こそ、タイムワープで過去に取り残されたという“ことになっている”人間なのだ。あの時私は疲弊していた。私という存在を、消し去りたいと思った。
タイムワープのバグを使い、遺伝子操作技術や、外科手術を経て、私は失踪したことになり、私は私の過去をごまかした。だからこそ、私は再びこの地に赴き、過去に赴き、なぜロドーが、未来に確信をもちそして夢をかなえたのかを知りたいのだ。私の世界では、あれから数日間が経過しただけなのだ。
「ああそうだ」
社長はタワーマンションの一室、カーテンもソファも紫で、椅子は金ぴか、大きなシャンデリアのある部屋、社長の部屋に私を案内して、テレビの横かの棚のガラス戸から何かをとりだした、彼女はその枠にいれられた写真、ある写真を私に見せた。それは彼女の家族と、まぎれもなく私がうつってにっこり微笑んでいた。慣れない和服に緊張して、肩を張っている。
「あら?あなた写真の人によくにている、あらあ、へんねえ」
社長は首をかしげている。そのままソファにこしかけ、私も対面がわに案内した、真横はガラス張りのドアで、ベランダが見える。
彼女は覚えているはずだ、それもそうだろ、その人はきっと僕だ、間違いない、確かに覚えている。
「この人、変な人だったね。突然山の頂上でぴかーっと光ってその後、“降りて来た”」
「降りて来た……」
……それは55年前のある日、その妹と兄ロドーは村近くの、里山、よく村人たちが山菜取りに訪れる親しまれた“あおおお山”とよばれる山に足をふみいれ、鬼ごっこをしていたという。その途中、てっぺんできらりと光る何かをみた。
「UFOだ!」
とここまではよくある話、降りてきた人間は銀色の全身タイツ以外は普通の人間だった。そう、それが何を隠そう。この私。私はそのとき正直な話パニックにおちいっていた。
(どうやって帰ろう、子どもたちに見つかった、こんなところでエンジントラブルなんて!!)
私はタイムマシン会社の整備士件飛行士をしていた。点検中に誤って飛行スイッチをおしてしまった。普通電源ははいっていないのだが、新人の整備士が手順をまちがえていたらしかった。不運に不運は
かさなり私は子供たちにみつかり、村の中心へ運ばれていった。
「なんか面白い事せーよ宇宙人」
「がるるるるる」
狂人のふりをして、なんとかその場をしのごうとしていた。そのとき、私をたすけたのがかのロドーとそのおやじだった。おやじは自動車整備士をやっていて、休日で村に帰っていたらしかった。
彼はタイムマシンの構造をいとも簡単によみといてしまった。そのわけを聞くと彼はこういった。
「過去を見ると未来がわかるのさ、俺は古い機械をいじるのが好きなんだ」
その意味は、今でもよくわかっていない。その魂はロドーの中に受け継がれ成熟していったのだろうか?彼はそれに気づいたのだろうか、しかし、ロドーの妹、メアリ社長は最後に私にこんなことをいった。
「おにいちゃん、おこられたっていってたよ」
「おこられた?」
私はその件をよく覚えていないのだが、父の手伝いのかいもあって、私のタイムマシンは正常な動作にもどった。私はそのとき自分がパニックをおこしてがむしゃらにマシンをいじってしまったことを反省し、過去の、先祖たちの技術や才能に敬服し、感謝した。
「ありがとう、あなたは恩人だ」
その夜、ロドーの家によばれ一緒に食事をいただいた。夜のうちに出発するというので、めしをくえといわれた、ロドーの母はノノ、父はサバサというらしかった。深夜、私は一人で山頂へ急いだ、あとを追って来る子供にも気づかずに……、山頂で銀色の丸い球、タイムマシンからは三脚のアームがつきだして地面をとらえていた。どうやら荒らされた様子もない。村の子供たちとは違い、村人たちは皆おとなしく冷静な人々だった。その村の子らもまた立派な大人になることを祈り、私は出発の準備をはじめた。
「まって」
「だれだ!!」
私が深夜山をのぼるとき、その後追って来る人間がいたのだ、それが彼、ロドーだった。彼は私にひとつのノートを渡してくれた。
「これ、おれ将来小説書きになりたいんだ、だからさ、未来にいってなれるかどうか占ってくれ」
そのとき、たしかに私は怒ったらしいのだが何を怒ったのかさっぱりおぼえていない、しかし、年老いた先祖様は、彼の妹は懐かしそうに、家族と私の写った写真をなでながら、まるで私に感謝をするようにそのとき私は、彼に向ってこういったのだと教えてくれた。
「未来が分かってしまったら、私は、お前が本物の大物になる機会を奪ってしまうのだ」
私はなぜだか涙がとまらず、全てを話して、メアリ社長を困らせてしまった。しかし私はそのとき、元の時代へ帰り、全てを白状することに決めた。そうすると世界が変わる気がしたし、世界が変わった気がした。メアリ社長の客間のソファに囲まれたテーブルの上には、きれいな花が花瓶にいれられて、生き生きとした様子をみせていた。

早すぎた人

早すぎた人

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-12

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