地底の英雄
英雄はどんな功績を残しても、それ以上の何かを得る事もできず、自慢する事も許されないのか。遠く奥深く、大昔の話、ある地底の王国“パルルソン”にて、100年前、呪いのブレスレッドをもらい受け、その主人となった英雄、エラは自分の能力を取り戻す方法をずっとも探し続けていた。彼女にかけられた呪いとは“老いない事”と“永遠の命”それからエラは死にたくても死ぬことができない事。彼女はただ一つ、その地底世界で英雄と呼ばれるまでの功績を残した。その偉業は、地底の神秘の物質を消費して作り上げた“人口太陽”の開発。おかげで地底世界は明るくなった。エラが作り上げた人口太陽が現れるまで、地底には得たいの知れないものがあふれていた、それは地底人の想像でもあり、実際神とも怪物ともしれない異形は、光がそこに存在するまで、闇の中に救っている。功績によってエラはたたえられた、英雄と呼ぶものもいた。だからその時は呪いのブレスを与えた人間に感謝した、それは地上人だった。エラは地上人の事はしらないが、地底に落ちたのを助けてから、“地上人の信仰のたまものだ”といってそれを送られたのだ。エラはそれを自分のために使うことにした。永遠の命と老いないからだを手にいてるかわりに、圧倒的な知性と“たったひとつの功績”を得る事ができる。地上人はそう言っていた。だが、たった一つの功績で生き延びるには、永遠はあまりに長かった、あれから100年、エラは生ける伝説としてたたえられ、宗教も生まれたし、彼女は形式上の地底世界の支配者となった。しかし本人は、現実の生活に退屈をして、ため息ばかりをついて、ほとんど毎日を自室ですごしていた。エラはブレスレッドを手首にはめた瞬間、人が変わったように知的になった、そのかわり彼女は、知的でないものを嫌い、退屈に感じるようになった。人とあっても、何か新しい事をしても、むつかしいことをしても、つまらない。何もかもうまくやれてしまうが、それがとっても退屈だ。特に功績を残してからは、この世で一番退屈をしている人間なのだと感じる。太陽を開発するまでは、とても有意義な時間をすごしていたように思うのに、あの快感がどういうものかを思い出すこともできない。
毎日毎日同じ時間が流れる、岩肌をくりぬいてできた彼女の清潔な一室は、常人の部屋の数倍はある、余りにも広く、いくつか壁をもうけて様々なスペースにわけた。読書のため、寝室。客を迎える場所、趣味の部屋。だけど何をしていても退屈で、ほかの者には秘密の部屋を一つつくった、それは最奥の部屋の地面をさらに下にむけて堀り、くりぬいた隠し部屋、その部屋はほかのどの部屋よりも小さく、しかしそこには彼女のつくった太陽が毎日のぼった。そうだ、彼女はそこに太陽を隠していたのだ。
その部屋をつくってからというもの、彼女は、過去を大切にしてきた。人間は自分の功績や過去の出来事を保存し、大切にし続ける。エラもそうした。人口太陽の何充分の一を自分のためにとっておいて、部屋の隅においていたのだ。いける仏のような扱いをうけて、ただ漠然と毎日を消費し、それでも考えている、また、新しい成果をいつか、新しい功績をこの世界のために……。
エラの部屋の太陽は、地底王国の12時間で明滅を繰り返す人口太陽とは違う、その小型太陽は、本体の人口太陽が昇るとき眠り、眠る時、昇る。彼女の生活もそうだった、無理に人に起こされない限りは。
ある日の事“エラ様、エラ様”
上の部屋から声がする、彼女は例のごとく、自室の中のさらに奥まった部屋の下の部屋、の中にとじこもっていたが、彼女の太陽は眠っているのに人に呼びかけられれば起きなければいけない、彼女は面倒そうに返事をする。すると声の主はいった。
「地上人があらわれて、エラ様を呼んでいると、上の階層のものから連絡がありました」
彼女は走った。縦に伸びるらせん状の地底王国の階段を、誰もが驚き振り向くような速度で駆け上がった。
「あなたがエラさんですか?」
その一瞬エラはわが目を疑った、あの時の青年だ、あのときの地上人だ。そうなのだ。彼そっくりの人間がそこにいた、顎髭ともみあげをたくわえた。金髪の、青い瞳の青年だ。
「いかにもそうだが、そなたは私を忘れたか?」
「あ……ああ、違います、私は孫です」
一瞬、エラは顔をあからめた、だがエラは、そのことに一つの納得を覚えた、地上人の顔は自分とは違う、だがエラはあの時とは違う鼓動の早まりを、その青年から感じたのだ。青年も、どうやらそうだったようだ。
「あなたのお姿を、父から聞いておりました、瞳の細く、退化したような人、父は恐ろしいといっていたが私には昔から運命のようなものを感じざるなかった、あなたは、貴方たちは、私の知らないものを知っている、それこそが私が、地上世界の中で常に求め、欲していたものです、あなたはとても素晴らしい功績を残されたのでしょう?私におしえてくださいませんか」
それから地上人は、エラに案内され地底王国を見て回った。地底王国は独特の文化が形成されていて、皆温和な生活でのどかな時間が流れていた。子供や人工は厳粛に管理されていて、エラは息苦しさを感じていたが、青年は物珍しそうに、すばらしい文化だ、素晴らしい王国だとひたすらにほめたたえ、そしていった。
「あなたの功績はひとつではありません」
その瞬間、エラは何かつきものがストン、と落ちていったような感じがした、見ると地べたに、ブレスレッドがころがっている、あのブレスレッドだ。100年前地上人からもらい受け、何をしてもエラの左手首から外れようとしなかったブレスレッドが地底の地面に転がった、青年は、それを拾い上げ、
いった。
「ああ、やはり、これは持主が運命を受け入れたとき、呪いが消え去るしくみなのですよ」
といった。エラはすべてから解放され、好奇心旺盛な地上人は、そのまま一度も地上に還らず、それから100年、エラとともに幸せに暮らしたという。
地底の英雄