8月10日


天使の羽みてぇ。な 薄い白色の雲が空にあって、だけど その羽を生やした、本体の方(天使の、天使たる部分の方)はいつも見えない。本当は天使は お空になんか いないんだろ、嘘つき。天使は普通に地上を歩いていて、すぐ死んじゃう アレのことだって、おれ は知ってる。だって おれ は ずっと天使になりたかったんだよ。(なれなかった し、もう なれない けど)

空に届きそうな 廃墟の屋根から突き出た 赤錆びた鉄骨に、足を滑らせた 天使が 串刺しにされてる様子 なんかを、つい連想してしまって、おれ は 天使でも悪魔でも なんでも、なにかが 死ぬっていうのは 悲しいことだって、これだけ ひどいコトをしてきても、確かにそう思ってる (ときどき、みんな死ねって思うことは もちろん あるし、というか そっちの方が 割合的には たぶん 多い けど)。だけど 小さな手から 肘までの 緩やかな 肌の 丘陵 を見た時に湧き上がる ゾクゾクした残酷な 気持ちが、いつか おれを 支配する気がして 怖かった。おれ は いつも、自分と、自分のしたこと と、自分のしたこと への罰に 怯えている。

マグロの解体ショーの 終わった後の、観客の手持ち無沙汰な 顔と、顔を えぐり取られたマグロの、あの世界の両極端に いるような距離感が ごく自然に、平和なスーパーマーケットに紛れていて、血なんかの印象は 無くて、柔らかいBGMに残虐が緩和されていて おれは、パックに入った中トロを 買い物かご に入れる様子を 見ていた。ママ、今日の夕飯は、ステーキ、わたし、生魚は 食べたくない。って おれ は、ぼんやり しながら 聞いていた。

8月10日

8月10日

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-10

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