新造人間

 導火線に火を付けろ、何分と立たずにやる気がわいてきて、自分はできる人間なんだと、そういう感覚が自分を中心とした世界を覆う。悔しい思いも悲しい思いも恥ずかしい思いも、悲しい思いもない。無感情なままやる気がわいてくる、人様はサプリメント。そういう奴の顔は笑っていない、だが俺は奴らのために働く労働者、人間たちは、人間さまは、新しい仕事を手に入れた。技術的特異点と呼ばれたそれはありとあらゆる議論を呼び寄せた。それは、アンドロイド、機械が自分たちより賢くなるために、機械のために仕事を奪われるだとか、機械が自分たち自身を量産してしまうとかいう事、だがそれでも人間たちは人間社会の成長と循環の足を止める事ができない。
 
 だが思わぬ出来事が起きた、頭がよくなった機械たちは、自分で自分たちに感情をつけたのだ。自分たちでそのプログラムを開発して、自分たちに引っ付けた、それが社会形成のために必要な事だと、彼等は主張する。だが問題がある、感情には振れ幅がある、それを先輩である人間たちはしっていた、かくして2200年代、機械たちより先輩な人間たちは、アドバイザーとしての資格と仕事を奪い合った。
『よくやりましたM-FR124号、あなたのおかげでアンドロイド区の平和は今日も保たれています、彼等にスクラップ前のアンドロイドに娯楽を与えたのは正しい考えですあなたの発想に感服します、きっと人間にはできないことでしょう』
 ビジネス街のオフィスビルにて、12階の部屋の中つきっきりの家庭教師のようにアンドロイドの“感情”の世話をする、スーツ姿の姿勢の正しい俺は彼の専属アドバイザー。左の椅子に腰かけて、PCの前で頭を抱えていたその人はときたまあげて、俺のほうをみてにっこりとほほ笑む、俺は彼の中の“人間”に語り掛けときたま引きずり出す、すると彼は再び仕事を始める。ついたてに仕切られたオフィスの中で、俺は家庭教師の仕事を日が暮れるまでやっている、上から目線などあってはいけない、疲れたと呟くのは家に帰って溜息をついてからだ。

 ついたてで仕切られた向うに人間労働者はどれくらいいるだろう、世界は変わってしまった、僕らは奴隷だ。アンドロイドの奴隷ということじゃない、人間はいつだって新発見の新発明の、まだ知らない感情の奴隷だ。でなければこんな世界に生まれて、生きてまでまだ生きようとも思えるはずがない。俺は本気でこう思いこう考えた、なぜなら俺が家庭教師をしているアンドロイドはどんな映画スターよりうつくしい、うつくしい女性だ。
『ああ、あなたは我々より数段かしこい、貴方の葛藤は私にはわからないけれど、崇拝し、畏敬の念を抱いています』

新造人間

新造人間

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-09

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted