シロヒメは大馬獣なんだしっ❤2 ~激突! プジラ対メカプジラ~
Ⅰ
「ぷりゅんりゅりゅんりゅんりゅん♪」
「ヒヅメ磨けよ」
一〝馬〟二役で歌う白馬の白姫(しろひめ)に、
「もうわかりましたよ、それは……」
アリス・クリーヴランドが疲れた顔でつぶやく。
今日もアリスは白姫のヒヅメを一生懸命に磨いていた。
磨かされていたと言うべきか……。
アリスは従騎士である。従騎士は騎士の見習い的立場だ。仕える騎士のための雑用は基本なんでもやることになっている。
アリス自身はそのことに不満はない。
そして、騎士が乗る馬の世話は従騎士の大切な仕事である。
しかし――
「毛並もブラッシングしろよ」
「うう……」
やってあげている当人……でなく当馬から強制されるのはやはり複雑な想いが――
「アリスーーーっ!」
そのときだった。
「真緒ちゃん」
同じ屋敷で暮らす六歳の女の子・鬼堂院真緒(きどういん・まきお)と、彼女を〝母〟と慕う少女・何玉鳳(ホー・ユイフォン)が駆け寄ってくる。
「どうしたんですか、そんなにあわてて」
「大変なのだ。また白姫が……」
その言葉が止まる。
「ぷりゅ?」
驚きの目を向けられた白姫が首をひねる。
「本当に……白姫なのか」
「ぷりゅ」
「では、あれは白姫ではないのか」
「ぷりゅ? ぷりゅりゅ?」
「あの……」
アリスは真緒のそばにいるユイフォンに声をかける。
「何かあったんですか?」
「あった」
「何が……」
「出た」
「出た?」
「現れた」
「現れた……ってだから何が」
ユイフォンは言った。
「プジラ」
「!」
一瞬で顔が引きつる。
「えっ!? い、いや、だって……」
あわてて白姫を見る。
プジラ――
それは白姫が巨大化した『大馬獣(だいばじゅう)』の名だ。
「白姫はここにいますよ!?」
「ぷりゅ!」
白姫もうなずく。
「しかし……」
険しい顔で真緒が言う。
「テレビに出ているのだ」
「はわわわわ……」
それは――
数日前に見たのとまったく同じ光景だった。
「プジラ……」
「ぷりゅぷりゅぷりゅっ!」
一緒にテレビを見ていた白姫が激しく首を横にふる。
アリスは、はっとなり、
「そ、そうですよね。白姫、ここにいますもんね」
「ぷりゅ!」
力強くうなずかれる。
「では……」
真緒が瞳をゆらし、
「誰なのだ、このプジラは」
テレビ画面。そこには巨大な馬――大馬獣が叫び声のうず巻く街中を行く姿が映し出されていた。
「友だちですか、白姫」
「そんなわけねーし! シロヒメの友だちにこんなひどいことする子いないし!」
「いや、この間は白姫自身が……」
「ぷりゅーっ!」
パカーーーーン!
「きゃあっ」
「シロヒメ、いい子だし! ひどいことしないし!」
「してますよ、いままさに!」
抗議はあっさり無視され、
「とにかくシロヒメじゃないんだし! シロヒメとカンケーないんだし!」
「言われてみれば……」
真緒はテレビを見て、
「白姫とは……すこし違う気がする」
「すこしじゃなくてぜんぜん違うし! シロヒメ、こんなに大きくないし!」
「いや、だから、この間は白姫が巨大化……」
「ぷりゅーっ!」
パカーーーーン!
「きゃあっ」
またもアリスが蹴り飛ばされたその直後、
「よし!」
真緒が立ち上がる。
「行こう!」
「ええっ!?」
「う!?」
驚くアリスとユイフォン。この間とまったく同じ展開だ。
さらに、
「行くし!」
「白姫!?」
「当たり前だし」
白姫は鼻息荒く、
「シロヒメのニセモノが悪いことしてるんだし。シロヒメへのふーひょー被害につながるし」
「いや、だって白姫、悪いことしてるじゃ……」
「ぷりゅーっ!」
パカーーーーン!
「きゃあっ」
さらに懲りずにアリスが蹴り飛ばされたあと、
「行くぞ、みんな!」
「ぷりゅーっ!」
「あっ!」
「待って、媽媽(マーマ)!」
真緒と白姫を追いかけ、アリスとユイフォンもまた部屋を飛び出すのだった。
Ⅱ
「はわわわわ……」
先日見た光景が再びアリスたちの前でくり広げられていた。
逃げまどう人々。こだまする悲鳴。その慄然とする空気は、何度目であっても決して慣れることはないと思えるものだった。
「た、大変なことになってるし……」
「いや、この前は白姫がこういうことしてたんですからね」
「ぷりゅーっ」
パカーーーン!
「きゃあっ」
「なんてこと言うし! シロヒメはここまでひどいことしてないし!」
「その分、いまひどいことしてます!」
「プジラはいい怪獣……じゃなくて馬獣なんだし。子どもを守るんだし」
「なら、こっちのことも守ってください!」
すると、
「確かに……」
真緒が真剣な面持ちで、
「プジラはいい馬獣だ。私を踏みそうになったときもちゃんとその足を止めてくれた」
「自分は踏まれましたけど……」
「それにこの間のプジラはこのように街を壊したりはしなかったぞ」
「それは……そうですね」
テレビの映像、そして遠目にもわかったことだが、今回のプジラは周囲の建物に被害が出るることを気にしていないように見えた。
先日のプジラは大通りを進んでいたため、騒ぎほどに被害は大きくなかった。
何より突然巨大化してしまったことでただ途方に暮れていた。
街を破壊しようとする意図などあるはずもなかった。
今回のプジラも積極的に街を破壊しようという気配は感じられない。
ただ――〝目的〟の意識は感じた。
「何か探しているようだな」
「ですね」
真緒の言葉にアリスもうなずく。
重々しく歩を進めながら、時折プジラは首をめぐらし辺りを見回していた。それは確かに何かを探し求めていると思わせる動きだった。
すると、
「ぷりゅ?」
プジラの顔がこちらを向いて止まった。
その視線は、まっすぐに白姫へと注がれていた。
「な、なんかこっち見てるし……」
そして、
「ぷりゅ!?」
ズシン! ズシン!
唐突にプジラの歩みが速まった。
「こっちに来ますよ!?」
「逃げるんだしーーーーっ!」
その場から走り出す一同。真緒のことはあわててアリスが抱えこむ。
「お、追ってくるんだし!」
「白姫の知り合いなんじゃないですか!?」
「あんなデカい知り合いいないし!」
「けど、白姫のこと追ってきてるみたいですよ!」
「ぷりゅりゅりゅりゅ……」
まったく心当たりがないのか、白姫は困惑の鳴き声をもらす。
そこに、
「!?」
ビィィィィィィィィィィィィィィッ!!!
「きゃーーーーーっ!」
後方から閃光が走った。
直後、アリスたちの前方で大爆発が起こる。
「――!」
とっさに真緒をかばって身を伏せる。
爆風が過ぎ去り、おそるおそる顔を上げると、
「!」
息をのむ。
爆発によるものだろう。前方の道路が大きくえぐれていた。
これでは逃げることができない。
「そんな……」
他の道はないかと左右を見渡すが、
「無駄だし」
「えっ……!?」
白姫は静かな表情で、
「プジラはシロヒメたちを逃がすつもりはないんだし」
「ど、どうして……」
「正確には『シロヒメを』だし」
「えっ」
「もっと正確に言うと……」
後ろをふり返り、白姫は言った。
「あれはプジラじゃなくてメカプジラなんだし!」
「えーーーーーーっ!?」
思いもかけない名前に驚愕の声がほとばしる。
「やっぱり知り合いだったんですか!?」
「そうじゃないし。けどわかるんだし」
「わかるんですか!」
「そうだし」
白姫は着実にこちらに近づいてくるプジラ――メカプジラを険しい顔で見つめ、
「ビームを出したんだし。普通のプジラじゃなくて機械のプジラなんだし」
「いやあの『普通のプジラ』の定義がよくわからないんですが」
「メカプジラはきっと未来から来たんだし」
「未来から!?」
「そうだし。未来のぷりゅボーグなんだし」
「ぷりゅボーグ!?」
「そうだし……」
真剣な面持ちのまま、白姫は語り出す。
「きっと、シロヒメのかわいさははるかな未来にまで語り継がれたんだし。そして、未来の科学力でシロヒメをコピーしたぷりゅボーグ……メカプジラが生み出されたんだし」
「いや、なんでそこまで断言できるのかよくわかりませんし、そもそも『ぷりゅボーグ』がなんなのか……」
「とにかく! メカプジラは未来からシロヒメに挑戦しに来たんだし!」
「えーーっ!?」
「それですべてが説明できるし」
「説明できるんですか!?」
「テレビでそういうのやってたんだし」
「確かに、昔の映画でありましたけど……」
理解をはるかに超えた言葉の連続にアリスはただただ戸惑うしかない。
と、不意に、
「アリス」
白姫がこちらを見る。
「あとのことは頼むんだし」
「えっ」
唐突に言われたことに目を見張る。
「それはどういう……」
その問いかけに答えることなく、
「ええっ!」
白姫は――
メカプジラに向かって歩き出した。
「な、何をするつもりですか! 無茶ですよ!」
「無茶でもやるしかないんだし。すべてはシロヒメがかわいすぎるからなんだし」
「それは……えーと」
「とにかく、メカプジラを止められるのはシロヒメしかいないんだし」
「そ、そんな……」
「このままにはしておけないんだし」
白姫の声が固くなり、
「このままだと、きっとシロヒメの友だちみんなも悲しい目に合うんだし」
「……!」
白姫の友だち――それはきっといつも遊んでいる子どもたちのことだ。確かにこのまま街が破壊されれば、彼らにも被害が及ぶだろう。
「シロヒメ、みんなを守りたいんだし! この街の平和を守りたいんだし!」
「白姫……」
感動に目もとがうるむ。
と、そこへ、
「だめだ」
真緒が白姫の前に出る。
「いまのおまえではメカプジラとは戦えないぞ」
「ぷりゅ……!」
だとしてもゆずれないという顔の白姫。
「どうしても行くのか」
「ぷりゅ」
「そうか……」
友だちを危地に向かわせたくないという思いをにじませつつ、それでも真緒は気丈に顔をあげて言った。
「ならば、祈ろう」
「ぷりゅ?」
「アリスとユイフォンも。白姫のために祈るのだ」
「祈るって……」
「う……?」
「みんなが祈ればきっと……」
真緒の声に力がこもり、
「きっとまた白姫はプジラになれる!」
「ええーーっ!」
「ううーーっ!」
共に驚きの声をあげてしまうアリスとユイフォン。
「その通りなんだし!」
「って、白姫まで!」
「いまはっきりわかったし。シロヒメをプジラにしたのは〝人間の想い〟なんだし」
「そうなんですか?」
「そうなんだし」
重々しくうなずき、
「人間が馬を大事にしないことへの怒りがシロヒメを巨大化させたんだし」
「そうだったんですか!?」
「そうだったんだし」
ぷりゅ。またも重々しくうなずく。
「大自然の怒りなんだし」
「大自然のって……大げさな」
「大げさじゃないんだし!」
ぷりゅ! 白姫が目をつり上げる。
「ぷりゅーか、グズグズしてる暇ないんだし! メカプジラがそこまで来てるんだし!」
「はわわっ!」
その通りだった。確かに言い争っているような場合ではない。
「祈るのだ」
あらためて。真緒が言う。
「私たちの想いを白姫に……白姫と共にある大いなる自然の意思に届けるのだ」
「そうなんだし」
ぷりゅ。三たびうなずく。
「真緒は馬を大事にしてくれるとてもいい子なんだし。真緒の想いならきっと届くんだし」
「はあ……」
「馬を大事にしない人間の想いがシロヒメを巨大化させたんだし。今度は馬を大事にする想いが大きくしてくれるんだし」
「なんだか、真逆のような気がしますけど」
「いつまでごちゃごちゃ言ってんだしーっ!」
パカーーーン!
「きゃあっ」
「時間がないって言ってんだし!」
「そうだぞ、アリス」
「ご、ごめんなさい……」
ここは真緒と白姫を信じるしかない。祈ることで白姫をプジラに――
「……って」
はっとなる。
「ち、ちょっと待ってください! メカプジラにプジラまで現れたら、もっとパニックになっちゃうんじゃないですか!?」
「そうはならない」
真緒が胸を張る。
「白姫には正義の心があるからな」
「ぷりゅ!」
白姫も力強く鼻を鳴らす。
「その通りだし! プジラになっても大丈夫だし! プジラは子どもの味方だし!」
「白姫……」
「シロヒメ、正義のためにプジラになるし! ぷりゅボーグにだってぷりゅトラマンにだってなるんだし!」
「ぷりゅトラマンって……」
「さあ、祈るのだ!」
「は、はい」
真緒の勢いに押されてアリスはうなずく。
「けど、祈るって具体的にどうやって」
すると、
「ぷりゅらーや、ぷりゅら~♪」
「それですか!?」
あぜんとなるも白姫の歌声に合わせ、
「ぷりゅらーや♪」
「ぷりゅら~♪」
目を閉じ、共に歌い出す。
真緒とユイフォンも声を合わせる。
メカプジラが迫る中、少女たちの歌声が街にこだましていく――
と、間もなく、
「っ……!」
感じた。先日と同じ〝熱〟を。
白姫がプジラから戻るときに感じたそれは、今回は収束していくのでなく逆に外へと向かって――
「ぷりゅぅぅぅー……」
直後、
「ぷりゅーっ!!!」
目を閉じていたアリスにも〝光〟がはっきり感じ取れた。
「白姫!」
目を開く。そこに、
「!」
いた。
そびえ立っていた。
「プジラ……」
見上げるも果てがないと思えるほどの巨大な白馬――
大馬獣プジラが再び現れたのだ。
「!」
大地が揺れる。
歩いていく。
眼前に迫る謎の機械の大馬獣――メカプジラに向かって。
「プジラーーーーっ!」
Ⅲ
「ぷりゅうっ!」
ガシッ!
プジラは正面からメカプジラと組み合った。
「ぷりゅりゅりゅりゅ……」
力をふりしぼる。
しかし、メカプジラの鋼鉄の身体はまったくゆらがなかった。
「さすがメカなんだし……すごい力なんだし」
――と、
「PU・RYU」
メカプジラが機械の鳴き声を放つ。
「!?」
ビィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!!
「ぷっりゅーーーーっ!」
とっさに身体を投げ出し、かろうじて目からの光線をかわす。
「そ、そうだったし。ビーム出すんだったし」
「PU・RYU」
ズシン! ズシン!
獲物を追いつめるかのようにじっくりとメカプジラが近づいてくる。
「ぷっりゅぅー……」
立ち上がったプジラは、応戦の構えを取りつつ訴えかける。
「やめるんだし、メカプジラ! なんでこんなことをするんだし!」
メカプジラは冷徹な表情を崩さず、
「PU・RYU」
「!」
鋼鉄のヒヅメがうなりをあげる。
「ぷりゅっ!」
なんとかガードする。しかし、勢いまでは殺せず、プジラの巨体が地をえぐりながら大きく後退する。
「メカプジラ……」
ズシン! ズシン!
容赦なく迫ってくるメカプジラ。
そのプレッシャーに、プジラは無意識に後退してしまう。
と、そんな自分にはっとなり、
「だめだし。メカプジラを止められるのはプジラしか……」
そのときだった。
「負けるな、プジラーーーーっ!」
顔を上げる。
「マキオ……!」
ふり向いたそこに見たのは、ビルの屋上から声援を送ってくれている真緒たちの姿だった。
「がんばれーーっ!」
「負けないでくださーーーいっ!」
「うーーーーっ!」
そして、
「つーよいぞ、プージラ♪ つーよいぞ、プージラ♪ つーよいぞ、プージラ~♪」
声高らかに真緒が歌う。その歌声がプジラの胸をふるわせる。
「プージーラー!」
「プージーラー!」
「プージーラー!」
みんなの声援が一つとなってプジラを勇気づける。
「ぷりゅ……」
涙がこみあげる――
同時に尽きることのないと思える力がプジラの中にわきあがる。
(マキオ……みんな……)
みんなが自分のために祈ってくれている。
真緒たちだけではない。自分の戦いには、この街、そして街に住む子どもたちの未来もかかっているのだ。
「プージーラー!」
「プージーラー!」
「プージーラー!」
プジラ――白姫は騎士の馬だ。
騎士は守るべき者のために戦う。
その想いが、いま彼女の胸にもはっきり渦巻いていた。
「ぷりゅーーーーっ!」
駆けた。
「!」
身構えるメカプジラに向かって果敢に、
「ぷりゅぷりゅキーーーーック!」
ドゴォォォン!!!
「PU……」
鋼の巨体がゆらぐ。
強烈な蹴りの反動で身体を浮き上がらせるプジラだったが、街を破壊しないようにとビルの狭間に華麗に着地する。
「プジラの蹴り、なめんじゃねーし。いつもアリス相手に鍛えてんだし」
「PU……RYU……」
かすかにふるえながらもメカプジラが体勢を立て直す。
「!」
双眸に光がまたたき始める。
とっさに回避しようとするプジラだったが、すぐに動きを止める。
近くには真緒たちがいる。先ほどは運がよかったものの、万が一にも避けたビームが向かったりしたら大変なことになる。
何より必殺のビームを打ち破らなければメカプジラには勝てない。
「負けないんだし……」
大地を踏みしめるプジラ。
メカプジラの目の光が輝きを増していく。
「みんなの想いを……みんなの想いを受けたプジラの力を……」
大粒の汗が頬を伝う。
プジラはぐっと歯を食いしばり、
「ヒヅメを信じるしーーーーーーっ!」
ビィィィィィィィィィィィィィィッ!!!
「ぷりゅーーーーっ!!!」
ピカァァァァァッ!
「ぷりゅぷりゅビーム返しぃぃーーーーーっ!!!」
「!?」
メカプジラの動揺が伝わってくる。
プジラは回避するのでなく、放たれたビームに向かってなんとヒヅメをくり出した。
金属である蹄鉄。
そこに、プジラ、そして真緒たちの想いがこめられ、奇跡を起こした。
蹄鉄はビームを受け、なんとそれを蹴り散らした。
そしてそのまま、
「!」
パカーーーーーーン!
渾身の蹴りが、メカプジラの顔面に炸裂した。
「PU……、RYU……」
損傷したメカプジラの顔から火花が散る。
「PU……P……」
再びビームを放とうとするメカプジラ。しかし、回路が損傷したのか、光が明滅するばかりでエネルギーが蓄えられない。
「……P……U……」
がくり。
鋼鉄の巨馬が膝をついた。
そんなメカプジラを見下ろし、プジラは力強く言い放った。
「プジラの勝ちだし! メカプジラ!」
そして、完全な決着をつけるべくメカプジラに向かって――
「やめるのだ!」
そのときだった。
「マキオ……」
動きを止めるプジラ。
「もうメカプジラは戦えない! メカプジラをいじめてはだめだ!」
「………………」
真緒の言う通りだ。
勝負はすでについている。
そもそも、戦闘能力を失った相手にさらに攻撃を加えるようなことは、騎士の信条に大いに反する。
騎士の馬にとっても、それは同様だ。
自分は心まで大馬獣に――怪物になるところだった。
(ありがとうだし、マキオ)
心の中でお礼を言い、プジラはメカプジラに歩み寄った。
「!」
メカプジラが驚きにふるえる。
プジラは彼女の身体を支え、その場に立たせてやった。
「立っても平気だし、メカプジラ?」
「……PU・RYU」
「戦いは終わりなんだし。戦いが終わったら……」
にっこり笑い、
「友だちなんだし」
「……!」
鋼鉄の身体がさらにふるえる。
「……PU……、RYU……」
そして、
「メカプジラ……!」
目を見張る。
涙――
機械の目に光るそれは、陽光を受けて優しく輝いていた。
光が辺りを包みこんでいく。
その光の中……友情で結ばれた馬たちは――
Ⅳ
「ぷりゅーわけで、メカシロヒメも一緒に暮らすことになったんだしー」
「『ぷりゅーわけで』……『というわけで』ということですか?」
アリスはあぜんと、
「いいんですか、そんなあっさり」
「なんか文句あるし?」
「な、ないですけど……」
にらまれ、あわてて首をふる。
(それにしても……)
視線が白姫の隣に向けられる。
「PU・RYU」
「う……」
明らかに人工的なその鳴き声に、アリスは顔を引きつらせる。
(機械の白馬って……いろいろどうしたら)
昨日の戦いの後――
前回のように、プジラは元の白姫に戻った。
しかし、驚いたのは、なんとメカプジラまで白姫のように普通の大きさの白馬になってしまったことだ。
いや、大きさ以外は相変わらず〝普通ではない〟ままなのだが。
「本当に大丈夫なんですか……」
「何がだし?」
「だって機械の馬だなんて……いきなり暴れたりとかしたら」
「ぷりゅーっ」
パカーーーン!
「きゃあっ」
「なんてことを言うアリスだし! 偏見だし! 差別だし!」
「そ、そんなつもりは……」
「あのキレイな涙を見なかったんだし? メカシロヒメはいい子なんだし」
「は、はい……ごめんなさい」
「だいたいメカシロヒメはシロヒメを元にしてるんだし。いい子に決まってるし。暴れたりするわけないし」
「いや、白姫、いつも暴れてるじゃ……」
「ぷりゅーっ」
パカーーーン!
「きゃあっ」
「あんまりごちゃごちゃ言うといじめるし。ぷりゅぷりゅキックくらわすし」
「もうくらわせてますよ!」
「メカシロヒメだってビーム出すんだし」
「えぇぇーっ!?」
「それがイヤだったらちゃんとメカシロヒメのお世話もするんだし。ヒヅメ磨けよ。ぷりゅんりゅりゅんりゅんりゅん♪」
白姫がまた例のメロディを口にする。
すると、
「PU・RYU……RYU・RYU・RYU……」
「ぷりゅ!」
驚きのいななきをあげる白姫。
ぎこちないながら、メカ白姫もメロディを口ずさみ始めたのだ。
「メカシロヒメも歌えるんだし!? すごいし! さすがメカのシロヒメだし!」
そしてメカ白姫と白姫は、
「PURYUN・RYU・RYUNRYUNRYUN♪」
「ヒヅメ磨けよ」
一馬二役だったのが、二馬二役で歌い出す。
やがて歌声が重なり合い、屋敷の広い庭に響き渡っていく――
街は今日も平和だった。
シロヒメは大馬獣なんだしっ❤2 ~激突! プジラ対メカプジラ~