真夜中、足音、走る人形。
ホラーテイストです。
※ホラーです。
双子の兄弟がいました、西洋の島国、ほとんど名前が聞かれたことのないような島国で、有名な国の植民地だった過去があります。
その島には様々な信仰が入り混じっていました、三大宗教のようなものから、土地特有の土着のアニミズム“=精霊信仰”まで様々でした、そんな土地柄か、不思議な出来事には寛容で、むしろ好奇心を持っている人が多かったのです、ですからこの兄弟も、その年の春ごろからはじまった、真夜中に聞く足音の事を、不思議におもわなかったし、母親や父親が、
『俺たちじゃない』
と言い張っても嘘だと思わなかったのです、それもそうなのです、父や母なら、キッチンなどに用があるはずでしょうし、でなければ反対側のトイレに用があるはずです、兄弟は二階に自室がありましたし。下の音はよく聞こえます、玄関がわにキッチンがあります、その近くに二回へと続く階段、そしてのぼってすぐ右に二人の共用の部屋がありました。ある日夜中に聞く物音が始まってからちょうど2か月ほどしたころでしょうか。耐え切れず、母と父を頼らずに二人でその足音の正体を確かめようと、土曜日の昼間のうちに二人だけでうちあわせして、見に行くことにしました、ちょうど深夜の三時頃でした。
[どたどたどたどた]
ものすごい足音です、はしりまわっています、キャッキャと子供のような声もします、それなのに父と母はおきてきません、双子の兄弟は“へんだなあ”と思いながらも二人で手をつなぎながら階段を一段ずつおりていきました。二人は、のぞき込むように足音のする方向をみつめました、暗闇に目が慣れるまで少し時間がいりましたが、物音のするあたりで何かがうごめいています。
『見えるか?』
と兄が言い終わったとき、すると、真上からでよくわからなかったのですが、双子の兄弟よりも身長が小さく、まるで赤ん坊のようなサイズの人工的な何か―—人形―—が、くるくるとダンスをしながら、階下の廊下を歩きまわっているのが見えたです、二人がそれを発見したその直後、兄が少しおどろいて、階段をひとつ駆け上がり、その音が廊下にまで響いたのを弟が察知して、兄に顔をむけ人差し指だけたてた右手を口元につけ、シッと合図をしました。恥ずかしそうに兄は頭をかいていました。そのとき、足音が消えたのをへんだとおもい弟と兄が人形のほうをみると……人形はこちらを見上げていました、それは切れ長の目をした、ぱっつんの髪の毛の、和服を着た人形でした、和服については父の故郷のものだと聞いていたので覚えはありましたが、人形の姿は、一種の異質な感動を覚えました。
数分ほど二人は何事か話し合っていたのですが、兄はとめるのも聞かず弟が下へ様子を見に行くといいます、のっそりのっそりと階段を一段ずつおりて、近づいていく弟、兄はそれを目だけでおいかけました。その後、弟が人形に近づいていくと、呼応するように人形は階段の丁度陰になる、真下真裏のほうへと、キッチンと玄関の真逆、廊下のお風呂のあるほうへとにげていきます、あ、あれ、と……弟も追いかけます、それはまるで操り人形とその操り手のようで、弟が一歩すすむと人形が一歩すすみ、弟が二歩進むと二歩進み、そんなことで、いつしか弟は一階へおり人形をおっていったのでした。やがて兄が階段の真下でゴトリ、と音がしたのを感じると、弟が逃げるようにやってきて、両腕をつかって×のポーズをしました、弟は小声で物置に入った、と兄に伝えました、兄は相変わらず階段の上、真ん中よりわずかに上で手すりをにぎってじっとしていましたが、弟が近づくと気丈にふるまい、腕をくみ、額に汗をながしつつも、黄色いTシャツの前で胸をはりつつもこんなことをいいました。長いまつげの瞳はとじられたままです。
『なぜ人形が走るんだろう、なぜ走るかという事が問題だ、きっと何かしかけがあるんだよ』
『そうだろうか。走ること自体が問題だ、一人でにものおきに入るわけもないし、おかしいよ』
と二人はそんな話しをしながら階段をのぼり、部屋に戻っていきました、ベッドに入ると眠れず、朝方まで話をしていようと確認しあったのですが、結局睡魔にまけて二人とも、朝には眠ってしまいました。朝になって母親に二人で昨日の事を相談しにいこうという話はしていました、やがて朝になると目覚まし時計が豪快な音とたて、二人を起こしました、弟が先におきて兄をゆり起こしたのですが、結局昨日の事は言い出しっぺの弟がきく事になりました、いつもはしっかり者のお兄さんは、昨日の事にはさすがにちょっと驚いているようで。
“夢か本当かわからない”
といって、朝まで起きていようだなんて、もちかけたのでした。
『おかあさん、お早う』
『おはよう』
続けて母は、二人は今日はとても朝がはやいねとほめて、エプロンをつけたお腹で二人をだきよせ、なでて、ほっぺにキスをしました、弟は頭をかいててれていて、兄はそっぽをむきました。そんな兄が昨日のことを詳しく説明しました。
『お母さん、昨日もきがつかなかった?』
『何が?』
会話を遮って弟が聞いても、やはり覚えがないようです、そこで弟は、昨日の人形が消えていった場所、恐る恐るその場所へ皆を案内しました。それは、階段の丁度真下にある、使われていないものおきです。
『ここあけていい?』
先にかけていったと尋ねると、まだ手が濡れていたのか、階段の陰からエプロンで手をふきつつ、母親がこちらを見ています、兄はそのすぐ隣にいました。弟が思い切って開けると。中はほこりだらけで、とても昨日の人形が入っているとは思えない有様でした、オルゴールやら、見たことのない本やらが山積みになっていて、段ボールの箱もつまれていました。その丁度真上上のあたりに、弟は、昨夜みたものとそっくりの人形を見ました。髪の毛がぱっつんの、眼が切れ長の、黒い目の人形でした。黒い目は、父親にそっくりでした。
『ああ、それ、そうだったわ、そんなところにしまったままにしていたのね』
すぐに母親がかけてきて、弟の顔についたほこりをてではらいのけ、ハンカチでふいてくれました、そしてお腹へだきよせ、両手で守るようにすると、そのことについて説明してくれました。
『それはね、無事に生まれてくるようにと、亡くなったおばあちゃんが作ってくれたものなのよ』
なくなったおばあちゃん、ときいて二人はピンときませんでした、おばあちゃんは外国に住んでいるといいます。
ひとまず三人はキッチンのあるリビングに戻る事にして、そこで、リビングの、ダイニングテーブルを囲んでいる木の椅子に腰かけ、三人で話をしました。母親は、こんな話を聞かせてくれたのです。昔、遠くに住んでいる父方の祖母、つまりお父さんのお母さんが、もともと体が弱かった双子の母親のために、彼女が妊娠したときから、人形をつくるといって手紙をよこしてくれたのです、むつかしい漢字ばかりで内容はよくわかりませんでしたが、父に聞く所によると、それはお守りの人形らしかったのです。その人形がとどいたころ、丁度二人はうまれ、母親もも目立った問題も起こらず、母子ともに健康に、退院することができたのです、その後父に聞いたことなのですが、丁度その入院中に、母親が他界されたそうなのです。父はそのことをいいづらくだまっていたそうなのですが、それを母はいま思い出したといって、二人が生まれて以来、父の故郷には一度しかいっていないという話を聞かせてくれました。
『そうだ、今年のなつ、おばあちゃんのところへいってみようか』
双子は青い瞳を輝かせて、つづけて母から、故郷の景色かわらの屋根や、畳の床のまだ見ぬ故郷の事をきかされ、学校へ行きました、二人は同じクラスでその話ばかりをしていて、その夜は、その夢をみました、その日から夏まで、不思議と廊下は静かなままでした。
真夜中、足音、走る人形。