メランコリックな野花
あの時の私のスケジュール帳は迷走していた、スケジュールに書き込むことがなくて、特に休日はする事がなくて、たとえばそれはひまつぶしとしては飛躍しすぎていて、あるいは手が込み過ぎていて、けれど誰もそれを見る事がないような、中途半端な完成度の……ひたむきにそんな、自分ひとりのためだけに、誰にも知られることのない、何の役にもたたない趣味を実行していた。
内容は、絵画、迷路、適当につくったあみだくじや、偽物の天気予報、ただ運気はひょっとした瞬間に訪れるもので、8月の日差しが強く、だけどひさしぶりに風の強く、屋内ではなんとかすごせるような丁度いい日で、私は特別な場面に遭遇した。同じクラスの野花さんが、花壇の花を見ている所……(ペチュニア、4~10月まで長い期間さく花、紫色)それは校舎裏の、私専用のぼっち食事ゾーンにて、——その一瞬に出くわして、私は息をのんだ―—つまり、まるで絵画をみているような一瞬だったから。
だけどこんにちは、なんて話かける勇気なんて私にはなくて、ただその様子を隅の校舎うの角、物陰の四角からみていたけど、ふいに彼女がこちらを、左をむいて、私はびっくりして、おおげさに挨拶をして、大げさな角度でお辞儀をしてしまったんだ。次の一瞬、私の体はそこから逃げ出した。そのとき私はスケジュール帳を落としたらしくて、次の日、初めは何の話をしているかわからなかったんだけど、野花さんが私に話しかけてくれてから、世界がかわった、だって、わかるはずがないのだ、朝から突然、話したこともない綺麗なショートカットの女の子が、
「あなた、面白いね」
だなんて。私は、同性に恋をしたのかもしれない。彼女をたよりにして、私には友達ができた、きっちりもので背が高いバレー部のヨリ、何考えてるかわからないけど、ライトノベルとか小説にくわしくて、自分でインターネットで発表もしたことがある、ノノ。そして、クラスの、一年にして女子高のマドンナ的存在の野花サキ。私は、ヒナっていう名前。対照的で面白いね、っていったけど、彼女はそれには苦笑いだった。
「それはそれぞれ素敵なものだよ」
って、汗を流して反論する、そこも素敵なとこだった。
ある日から、彼女は、担任のミチ先生とよく会話してる事があって、笑いあっている所もみたけど、怒ったり、深刻な顔をして話し込んでいることもあった。どうやら彼女らは親戚らしいことが風のうわさでは伝わってきていた。私は、ただあの子がとてもきれいで、そんななんでもない日が続けばいいと思っていた、でもある日、そんな奇跡みたいな、私にはもったいないような偶然の出会いは、終わってしまった。
校舎裏の花壇を見つめていた野花さん、その花が咲くまでに、転校をしてしまった、私はありとあらゆる意味で、彼女が好きだったのかもしれない、私には話さなかったけれど、所謂彼女レズビアンで、そして、何かを悟った気がしたのだ。先生とは本当に親戚らしく、そういう関係ではないとはっきりといわれていたし、先生もそのまま学校で務めているから、何もなかったんだと思う、ただ思い出すたび悲しくなる、彼女が残していった彼女の友達は、私の友達になって、私の事を見てくれるし、本当の親友になった、でもそこに、あのとき校舎裏の花壇をみつめていた、野花さんの、あの笑顔がない、まるで絵画の一瞬をきりとったような綺麗な笑顔がない。私なら、悩みなんてすべて聞いてあげたのに、と思うと涙がこぼれて、それからはスケジュール帳を、将来の目標のための努力埋めるように心がけている。いつかまた会えるように。
メランコリックな野花