川にうかぶ
事態は急展開を迎えた。
目の前で泣きじゃくり、私が悪いのだ、私が死ぬべきなのだ、一人ではいかせないのだと喚く母を、私は困惑の表情で見つめるしかない。
なんだというんだろう。
なぜ死ななければならないのだろう。
彼女は十分に幸せなはずだ。
公務員で毎日17時を少しまわったころに帰宅して浮気一つしない夫
都立高校から国立大学へ不安要素ひとつなくするりと進学した娘
週に2回パートに出かけ、そこで得た友人とそこで得た収入で遊ぶ
パートのない日は誰もいない家で韓国ドラマを片っ端から見て
美味いコーヒーをすする
ぷくぷくと太った犬もいる
実に理想的な人生に思える
それが、急にこうなった。
姉と違って不出来な方の娘が一人、綺麗に身支度をしていたことが原因で。
黒いドレスを着てドレッサーに向かい綺麗な赤い口紅をひく
緩やかに波打つ明るい茶色の髪を解いて
突然の侵入者にぱっちりと黒い瞳を向けた
それを見て母はさっと顔色を変えた
私の日記や私のアルバム、携帯電話を覗くのが日課の母は
私の考えていることなんてお見通し
私は、誰に迷惑もかけず、美しく、静かに、死のうとしただけなのに。
川にうかぶ