妖精が見える者


13歳になるエミは、学校の宿題でフェアリーの探索を命じられた、アスタリスク魔法学校は人間の世界の名前では、西カカピ校といい、東方の島国カナイ島にある。彼女は学校の掃除すらさぼるし、宿題もやらない、その割に、成績はトップクラスで、教師も困惑している。
「小学生までいい子だったのに」
生徒も教師もみな一様に口をそろえてそういった。そんな中、担任もしばらくそのままにしていたが、ある秋の日、彼女にはったりの試練をあたえた。
「フェアリーを捕まえてこなかったら、お前は退学だ」
朝のホームルームで名指しでそういわれ、彼女もしだいに顔を青くして、やがて席をたち、とびだしてしまった。
「先生やりすぎでは」
「そんな事できるはずありません」
ガヤガヤする教室、男の担任で、熱血気味ではあったが、ここまでの難題をつきつけるとは。
期限は1ヵ月、彼女には苦しい試練だった、フェアリーは心の綺麗なものにしか見えないといわれているからだ、そして彼女は、13歳になったある日から、フェアリーの姿が見えなかった、それは昨年の祖父の死の後からだった。
「おじいちゃんのいない世界なんて、意味がない」
祖父にべったりとした生活をしていた彼女は、葬式の日、悔し涙を流してそういった。それから彼女は人が変わったように無口になった。もともと人当りがよく、誰にでも優しかった少女が、豹変したのは、祖父の死、それからだった。



一週間がすぎた。彼女はいらいらしていた、いままで自分勝手に振舞っていても成績が優秀だったので許されたのだが、素行が悪いことを初めて指摘されると、学校に自分の居場所が無いように感じた、自分には何もできないのではないかとすら感じる、彼女は実践的魔法能力をうしなっていて、それを学校に把握されることも恐れていた、そしてもちろんフェアリーなんて、今の彼女には見えなかった。彼女は、なぜ祖父が死ななくてはいけなかったのか、なぜ自分ではなかったか、そんな“悪い心”を抱えていたのだ。
 そんな彼女をみかねて、毎日部屋を訪ねてくるのが16の兄だったが、そんな兄にも冷たくあしらった、彼女は孤独に戦いつづけたが、2週間がすぎたあるころ。彼女は、毎日家の裏山を訪ねてはフェアリーをさがして、その日、ついに見つけられたかとおもったものは、バッタだった、むしゃくしゃしたが、どうしようもないので、一人で、
「はははっ」
と笑いながらそのことを日記にかいた。
「何もないよりはいいことだ」
そう語る祖父は、生前、ある願いを託した。
それはフェアリーの世話だった、フェアリーの世話は、人一倍手間がかかる、心優しい人間にしかフェアリーは心を開かない。彼は子供のころから飼っていて、親友となっているフェアリーがいて、彼の書斎で彼は、彼の死を心配してまっていた、見舞いに連れていくこともあったが、そのころにはその親友フェアリー“フレッグ”の姿さえ、彼女には薄く、ときに透明になって見えた。
 3週間がたとうかというとき、今度は兄が倒れた、高熱だった、すぐに医者をよびことなきをえたがさすがにエミはその日、付きっきりで看病して挙句の果てにはこういってないたのだ。
「お兄ちゃんまでいなくならないで」
そのとき兄は彼女の頭をなで、あるヒントをだしたのだった。

ついにフェアリーの捕獲。宿題のその時はやってきて、クラスのみんなはそわそわしながらその日のホームルームを見守っていた。朝早くからしっかりと席についていたエミ、しばらくすると担任がやってきて、ガヤガヤしていた教室も静かになり、話題はそのことに集まらざるをえなくなった。
「エミ元気かい?」
担任は尋ねるが、エミはあらぬ方向をみている。
「……」
そっぽをむき、知らないふりをするエミ、席をたつようなそぶりをしたら、担任がとめた。
「得たものはあったか?」
と先生は質問が、そっけなく、こう答えた。
「あったかもしれないし、なかったかもしれません」
すでに魔力を取り戻していて、それが善行から生まれるものだと知っていても、反発する感情を忘れていた。彼女はもう“悪い心”を知っていたから。
早朝に担任の机の上に、きっちりと宿題は置かれていて、そのそばには手紙と小さなおし花がそえられていた。フェアリーはちゃんとつかまえられていて、ペットボトルの中にいれられ、一緒に木の実もいれられていた。フェアリーがおいしそうにそれをほおばっているのを見て、担任は彼女の未来を安心して明るく考えたのだった。

その日はきっちり掃除や当番をつとめ。その下校で、久しぶりにクラスのみんなと打ち解け、友達と一緒に帰ることになったエミは、捕まえたフェアリーが、とても変わったなまりを持つ、髪の毛がぼさぼさの踊り子なのだといってみんなを笑わせた、それと対照的に祖父のフェアリーは、紳士的で深くシルクハットをかぶっていた、とても知的なのだ、彼女が再び彼をみたとき、彼はこういって受け入れてくれた。
「おかえり」
では、兄はあの時何といって彼女をはげましたのだろうか。
「何もないことはいいことだ、と祖父はいっていた、祖父の死を、ただ悲しいと受け止めると、その思いに反する、だから俺はあえてお前をはげましていたんだ、ところでエミ、風邪を早く治す魔法もあるときいた、お前なら中学生のうちに習得できるはずだ、それで許してやるから、もうツンケンするのはやめたほうがいいぞ、お前らしくない」
そういって頭をなでる兄の前で、彼女は少しないたのだった、その後祖父の部屋に戻ると、祖父の親友が彼女を暖かく迎えた、それが一連の話の顛末だった。

妖精が見える者

妖精が見える者

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-06

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted