一年の約束 02.現実
友香里の家にはまだ入ったことがない。前に父親と二人暮らしだと言っていた。
俺は友香里の家に着き、インターホンを押す。
『ガチャッ』
すると、家のドアがゆっくり開いた。そこにはパジャマ姿の友香里がいた。
「康平君...?」
「見舞い、来たぞ」
「そんな...よかったのに」
こんなに元気のない友香里を見たのは初めてだ。
「上がって...」
俺は友香里の家にお邪魔する。そのまま二階に案内された。途中、リビングを通りかかった。テーブルにはインスタント類の食べ終わった器やいろんなものが散乱して置いてあった。
二階に上がり、友香里の部屋に入る。
「座って...」
俺は床に座る。
「どうしたんだよ。風邪でも引いたのか?」
「.....」
答えない。何かさっきからおかしい。
その時、俺はある事に気付く。さっきから友香里が右手首を左手で握っている。
「何で手首握ってんの」
「え...!?」
それにさっきからずっと小刻みに震えている。
「手首見せて」
「ダメ...」
俺は右手首を握っている左手を無理やり放させた。そして、俺は衝撃を受ける。
「違う...違うの...」
手首に酷く傷痕があった。何箇所も。
「どうしたんだよ、これ」
「言えなかったの...ずっと...」
俺はとりあえず友香里を落ち着かせて、ゆっくり話をさせた。
友香里がまだ小学生の頃。母親が交通事故で亡くなった。それから父親と二人暮らしが始まった。
家事とか何もできなかった父親は友香里のことに関して一切何もしなかったために、友香里は母親の祖母祖父の方に引き取られ中学二年まで育てられた。
しかし、祖母祖父が倒れそれからまた父親と二人暮らしになる。友香里はここから辛いことが始まったと言った。
父親の仕事が上手くいかずそのストレスを友香里にぶつけ、暴言を吐き、最も酷かったのは酒に酔った父親からの暴力。
この頃から友香里は自分の体を傷つけるようになったと言う。
「ずっと言えなかった...今日もお父さんから殴られて蹴られて...怖かった...」
「友香里...」
その時、俺は何でもっと早く気付いてやれなかったんだって自分を恨んだね。
近くにいる俺だからこそもっと早く気付いてやればよかったって。
今の俺にできること。友香里を守ること。これ以上友香里をボロボロにさせたくはなかった。
「俺の家に来い」
「...え?」
「お袋も親父も友香里のことは知ってるし、よく思ってる。事情を話したら分かってくれるから」
「ダメだよ...迷惑かけるし...」
「大丈夫だから。落ち着くまで家にいろ」
「でも...」
「お前をこれ以上傷つけさせたくない」
「...本当にいいの?」
「あぁ、いいよ」
「...ごめん...ごめんね...」
泣きながら言う友香里。
「ありがとう...」
友香里は目を手で擦って、笑顔を見せた。でも、その笑顔は笑顔じゃない。嘘だ。笑顔何て出るはずない。これだけ自分を傷つけて素直に笑顔が出るわけがない。俺はもう胸が苦しくなるばかりだった。
不意に俺は友香里を抱きしめた。気付いてやれなかった後悔だけが重くのしかかる。
こうして、俺は友香里を俺の家へと連れて行く。
これ以上、友香里を傷つけさせないように。
一年の約束 02.現実