規制線
ミシマ、と彼女は言った。聞いたことのない地名だったが、どうやらそれが規制線の内側の地名らしい。
「行かない?」
あっち、と指し示した彼女の人差し指の爪はオーバル型に整えられ、艶っぽいコーラルピンクのマニキュアがてかてかと光っていた。
「逃げたいんでしょう?」
私は妖しげな輝きに魅せられながらも首を縦に振ることができなかった。背後からは獣の咆哮が聴こえ、足元に広がる石造りの橋の下では汚れた川の水の中で魚の大群が藻掻くように蠢いている。
――きっとどこまで行ったとしても。
規制線の内側まで続く川の流れを見ながら、私は、世界が繋がっていることに何故か少しだけ安堵していた。
規制線