アイドル

 その日、学園近くのコンサート会場で、とある男性アイドルに捨てられた制服姿の少女が二人、相次いで自殺を図った。その日は未曾有の大雨で一人はアリーナ席の窪みにできた水溜りの中でうずくまるようにして溺死。もう一人は後方のスタンド席から飛び降りて死亡。全身を複雑骨折し、四肢はあらぬ方向へ曲がっていた。周囲が騒然とする中で私の隣に立っている女は二人を捨てた男を想い、泣いていた。
「彼にこんなところを見せちゃいけない」
 彼女もまた男に捨てられた一人だった。
「彼は自分しか愛していない。でも女たちが自分へ注ぐ愛と熱量が失われれば、彼の金色の輝きは消えてしまう」
 周囲の女たちは気が触れたように男の名を叫び、少女らの後に続けとばかりに自傷を始める。それはまるで、この惨状を男に見てほしいと言わんばかりの行動だった。
「彼を探しに行かなくちゃ。――私が、彼を逃してあげないと」
 雨音に掻き消されてしまいそうなほどの幽かな声量で、歌うように女は言う。その口元には不自然な笑みが浮かんでいた。
 

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-05

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