8月5日


焼き過ぎてパサパサになったレーズンパンを食べるぼくと、凍ったカチカチのレーズンパンを食べるエス。おれたちがお風呂の水だったら、ちょうどいい湯加減だよね、ねえ、エス。おれはパン屋さんになりたかったんだよ。(青酸カリを手に入れるまでは)
知ってた?

ばかみたいに強い風が吹いていて、質屋さんの看板が揺れていた。落ちてきたらどうしようって背中をゾクゾクさせながら、その下を通るのは、いつの日か本当に落ちてくる日の予行練習的なアレ。質屋の赤い、ひょうたんみたいな形をした看板に潰された おれは、そのまま地面に擦り込まれちゃうかもしれない。地表の下をドロドロの液体になって這いずり回って、途中でマグマと合流するよ。(いつか見た、火山の噴火、アレの圧倒的な恐ろしさと力強さ、美しさを、おれ は今も覚えている) 待たせて悪かったな。そしたらついに ぼくは地底人に会えるんだよ、エス、ぼくを いい子で待っていて。

新しく買ったガラスのコップに、綺麗な赤色の薔薇が咲いていて、今日初めて見たはずなのに、ずっと小さい頃にどっかで見たことがあるような気がした。この家で、不釣り合いなぐらい、綺麗なコップだった。おれが そのコップに水を汲んで、薬を流し込むのに使っているってことが、急に申し訳なくなった。

8月5日

8月5日

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-08-05

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